私は真っ赤な顔のまま、逃げるようにキッチンへ駆け込み、冷たい水を一気に喉に流し込んだ。
冷たさが体の中を通り抜けて、少しだけ冷静さを取り戻す。
コップを置いてリビングに戻ると、先輩はすでにソファから立ち上がっていた。
すれ違いざま、ふわりと、昼間も嗅いだあの爽やかなシトラスの香水の匂いが鼻腔をくすぐる。
「……早く寝ろよ、世話係」
耳元で、少し掠れた、だけど甘い声が囁かれた。
その吐息が耳朶に触れた気がして、私の体は今度こそ完全に硬直する。
先輩は私の頭を、大きな手でポンポンと叩いたあと、少し乱暴にクシャクシャと撫で回すと、そのまま長い足を動かして自分の部屋へと消えていった。
静まり返ったリビングに、私一人。
撫でられた頭が、まだじわりと熱い。
心臓の音が、さっきよりもずっと、うるさく脈打っていた。
(な、なんなのあの先輩……! 振り幅が大きすぎて、心臓が持たないよ……っ!)
これが、私のロイヤル棟での、忘れられない最初の夜になった。


