朔先輩が、空を切った手をポケットに突っ込みながら、有無を言わさない絶対君主のドヤ顔で言い放った。
「陽菜は俺の『専属』なんだから、プロムのパートナーも俺に決まってる。……おい陽菜、当日のドレスは俺が見立ててやるから覚悟しとけよ」
いつもなら「勝手に決めないでください!」と笑って言い返せるのに。
今の私には、先輩のそのまっすぐな好意が、ひどく痛かった。
(私が朔先輩の隣に立ったら……お兄ちゃんの就職も、先輩の将来も、全部ダメになっちゃうんだ……)
「……陽菜? おい、聞いてんのか?」
「え……? あ、ごめんなさい、なんの話でしたっけ」
私は俯いたまま、無理やり口角を引き上げた。
「皆さんお腹すきましたよね、私、夕飯の準備しちゃいます」
「……は? おい、ちょっと待てよ陽菜!」
朔先輩がキッチンへ追いかけてこようとした、その時。
リビングで蓮先輩のスマホがけたたましく鳴り響いた。
「うわっ、ごめん朔! 明日のプロムの機材トラブルだって。生徒会役員、至急講堂に集合だってさ!」
「チッ……。おい陽菜、すぐ戻るからな。飯作って待ってろよ!」
バタバタと慌ただしく、三人が出かけていく足音と、ドアの閉まる音が響く。
しん、と静まり返ったロイヤル棟。
……今しかない。


