放課後。
私の下駄箱に入っていたのは、真っ黒な封筒に金色の蝋で封がされた、いかにも物々しい手紙だった。
『放課後、学園の裏門まで来られたし』
差出人の名前はない。
ただならぬ気配に戸惑いながらも、人通りの少ない裏門へと向かうと、そこには異様な光景が広がっていた。
夕日に照らされて黒光りする、長大な黒塗りのリムジン。
私が息を呑んで立ち尽くしていると、屈強な黒服の男が無言で後部座席のドアを開けた。
薄暗い車内にふんぞり返って座っていたのは、鋭い眼光を放つ初老の男性だった。
「……乗りなさい。少し話をしよう」
でも、私には全く見覚えのない人だ。
「あ、あの……人違いじゃないですか? 私、あなたのような立派な方とお知り合いでは……」
逃げ出したい気持ちを必死に抑えて尋ねる私を、その男性は頭の先からつま先まで、冷たく値踏みするようにじろりと見据えた。
「人違いではない。君が森下陽菜だな。……単刀直入に言おう。私は一ノ瀬グループの総帥。朔の祖父だ」
「さ、朔先輩の……おじい様!?」
予想もしなかった名前に、私はハッと息を呑んだ。
言われてみれば、整った顔立ちや、人を平伏させるような絶対的なオーラは朔先輩にそっくりだ。
逃げることなど許されない威圧感に押し切られ、向かい合わせの革張りシートに座らされると、おじい様は冷酷な声で告げた。
朔先輩にはすでに、家格にふさわしい婚約者が用意されていること。
私がこのまま朔先輩の側にいれば、いずれ先輩の輝かしい経歴に傷がつくこと。
「今すぐ朔の元から離れなさい。もし君がこのまま私の孫をたぶらかすと言うなら……優秀な国立大学生だと聞いている君のお兄さんの就職先や、家族の平穏な生活がどうなるか、私には保証できないよ?」
「っ……!」
その言葉は、私から反論する気力を完全に奪い去るには十分すぎるほどの破壊力を持っていた。


