言葉を遮るように、先輩の大きな手が私の手首を掴んだ。
そのまま強引に引き寄せられ、気づけば私は、噴水から少し離れた薄暗い木陰で、先輩の腕の中にすっぽりと閉じ込められていた。
遠くから、後夜祭のロマンチックなワルツのメロディが流れてくる。
「さ、朔先輩……?」
「……俺の言うこと。今から一曲、ここで俺と踊れ」
「えっ!? で、でも私、ダンスなんて踊ったことないですし、それにエプロン姿のままで……っ」
「……ステップは俺が全部リードしてやるから、お前はただ、俺に身を委ねてりゃいいんだよ」
先輩の手が私の腰に添えられ、もう片方の手が私の指先を優しく、けれど逃げられないように絡め取る。
「ほら、こっち見ろ」
甘く低い声に促されて顔を上げると、至近距離に先輩の綺麗な顔。
誰もいない静かな木陰で、噴水の水音と遠くのワルツをBGMに、私たちはゆっくりとステップを踏み始める。
普段は意地悪でドSな先輩なのに、私をエスコートする手つきは信じられないくらい優しくて、まるで本当のお姫様になったような錯覚に陥ってしまう。
「……陽菜」
「は、はいっ」
「お前、さっきから下ばっか見てる。俺の顔見ろって言っただろ」
「だって……先輩の顔、近すぎて……っ。心臓がうるさくて、倒れそうです……」
私が正直に白状すると、先輩は「くっ」と意地悪に笑い、さらに腰を抱く手に力を込めた。
「倒れるなら俺の腕の中で倒れろ。……最後まで俺の我儘に付き合えよ」
ちゅっ。
おでこに、熱くて柔らかい感触が落ちて、私の思考回路は完全にショートした。
交わるはずのなかった二人の距離は、もう戻れないくらい、深く近づいてしまったのだった――!


