オタクな秘書の攻略方法〜来る者拒まず去る者追わずだった同期に一途に溺愛される

翌週の月曜日。
真白は死ぬ気で「完璧な秘書」の仮面を修復し、出社していた。
(大丈夫、神尾くんは『関係ない』って言ってたし、彼みたいなスマートな人が、他人のプライベートを言いふらすわけがない。いつも通りにしていればいいのよ)
自分に言い聞かせながら、真白は役員フロアの複合機で資料をコピーしていた。
その時、ふと、複合機の横にあるシュレッダーのゴミ箱の脇に、1通のクリアファイルが落ちているのが目に入った。
「あら、落とし物?」
お人好しで、どうしても見て見ぬ振りができない真白は、そのファイルを拾い上げた。
中身を見て、目を見張る。
『生活産業グループ・繊維部 アジア新市場開拓プロジェクト・最終起案書』
「これって……神尾くんの部署の大事な書類じゃない。しかも、今日の午前10時からの役員会議の提出用……!?」
時計を見ると、現在の時刻は午前8時45分。
ファイルの中の資料は、ホチキス留めが外れ、順番もバラバラになっていた。
おそらく金曜日の夜、蓮がシュレッダーを使いに来た際に、慌てて落としていったのだろう。
「大雑把にカバンに突っ込むからこうなるのよ、もう……!」
真白は文句を言いつつも、持ち前の「状況整理の早さ」と「完璧な実務能力」を発揮し始めた。
自分のデスクにファイルを交互に持ち帰り、バラバラになったページのインデックスを瞬時に照合。
折れ曲がったページの端を綺麗に伸ばし、最新の修正データと突き合わせて順番を整えていく。
さらに、秘書ならではの視点で、「役員が見やすいように」重要な箇所に小さな付箋を貼って差し上げた。
午前9時15分。完璧に修復され、見違えるほど美しく整理された起案書が完成した。
真白は誰もいない12階の営業一課のフロアへ降り、神尾蓮のデスクへと向かった。
蓮のデスクは、彼の性格を反映して、ペン一本、書類一冊の乱れもなく整然と片付いている。
真白は、そのデスクの真ん中に、そっとクリアファイルを置いた。
見返りを求めるつもりはなかった。
ただの「見て見ぬ振りができないお人好し」な性格のせいで、体が勝手に動いただけだ。
「よし。これで貸し借りなし、ね」
真白は小さく呟くと、誰に見つかることもなく、手早く24階の自分の城へと戻っていった。