あの雨上がりの夜から数日。
週末を真白の部屋で、まるで空白を埋めるように甘く、穏やかに過ごした二人は、月曜日の朝をかつてないほど晴れやかな気持ちで迎えていた。
「おはようございます、乾さん」
「神尾さん、おはようございます。今週もよろしくお願いいたします」
オフィスですれ違う際、交わす挨拶はいつも通りのビジネスライクなもの。けれど、一瞬だけ重なる視線の中に、二人だけの秘密の温度が宿っている。
もう、緑川の言葉に真白の心が揺らぐことはなかった。
隣を歩く彼の「今」と「未来」を独占しているのは、自分だという確信があるからだ。
だが、彼らを脅かす悪意の芽をそのままにしておくつもりは、この四人には毛頭ない。
同日、お昼休みの役員フロアの非常階段。
聖良、佐伯、そして神尾と真白の四人が、静かに顔を揃えていた。
「真白、もう顔色は大丈夫そうね」
聖良が心配そうに真白の頬を覗き込み、真白は照れくさそうに微笑んだ。
「うん、聖良。本当にありがとう。もう大丈夫」
「よし、じゃあ本題に入ろうか」
佐伯が手元のタブレットを提示しながら、一気にプロの表情になる。
「緑川の動向だけど、やっぱりかなり焦ってるみたいだ。神尾に完全に拒絶された上に、営業一課への個別の接触も俺がブロックしてるからね。社内での立場を守るためか、今度は共同プロジェクトの進捗データをあえて遅らせて、神尾から連絡を入れさせようと画策してる形跡がある」
「仕事に私情を持ち込むなんて、プロとして最低ですね」
真白が冷徹な声で言う。その瞳には、秘書としてのプライドと、愛する人を守るための強さが宿っていた。
「ああ。緑川のその『焦り』こそが、こちらの最大のチャンスだ」
神尾が冷たい笑みを浮かべ、真白の肩にそっと手を添えた。
「本日、緑川から提出されるはずの進行管理データが遅延した時点で、俺と佐伯はあちらの会社の『プロジェクト管理責任者(緑川の上司)』へ直接、遅延に関する報告書を提出する。同時に――小鳥遊さん、例のログをお願いできますか」
「任せて」
聖良が不敵に笑う。
「緑川が定例会や役員フロアで、真白に対して行った、業務外の不適切な接触や発言のログ。監視カメラの映像データと合わせて、すでに常務名義の『コンプライアンス違反に関する抗議書』として一課に回せるよう、裏で申請を通してあるわ」
緑川が「蓮を揺さぶるため」に行ったすべての嫌がらせが、今や彼女自身の首を絞める強固な証拠(ログ)として、完璧に揃いつつあった。
「乾さん」
神尾が真白を見つめ、声音を優しく和らげる。
「もうすぐ、すべてが終わる。君を脅かすものは、俺が一つ残らず排除するから」
「はい。信じています、蓮さん」
真白が小さく、彼にしか聞こえない声でその名前を呼ぶ。
神尾は一瞬だけ目を見開き、それから愛おしさに耐えかねたように、佐伯と聖良の前であることも忘れて、真白の小さな手をぎゅっと握りしめた。
「ちょっと、廊下でイチャつかないでくれる? 作戦会議中なんですけどー」
「あはは、ごちそうさま。まあ、神尾がこれだけやる気なら、あの元カノも今週で見納めだな」
冷徹な包囲網が、緑川の知らないところで静かに、そして確実に閉じようとしていた。
週末を真白の部屋で、まるで空白を埋めるように甘く、穏やかに過ごした二人は、月曜日の朝をかつてないほど晴れやかな気持ちで迎えていた。
「おはようございます、乾さん」
「神尾さん、おはようございます。今週もよろしくお願いいたします」
オフィスですれ違う際、交わす挨拶はいつも通りのビジネスライクなもの。けれど、一瞬だけ重なる視線の中に、二人だけの秘密の温度が宿っている。
もう、緑川の言葉に真白の心が揺らぐことはなかった。
隣を歩く彼の「今」と「未来」を独占しているのは、自分だという確信があるからだ。
だが、彼らを脅かす悪意の芽をそのままにしておくつもりは、この四人には毛頭ない。
同日、お昼休みの役員フロアの非常階段。
聖良、佐伯、そして神尾と真白の四人が、静かに顔を揃えていた。
「真白、もう顔色は大丈夫そうね」
聖良が心配そうに真白の頬を覗き込み、真白は照れくさそうに微笑んだ。
「うん、聖良。本当にありがとう。もう大丈夫」
「よし、じゃあ本題に入ろうか」
佐伯が手元のタブレットを提示しながら、一気にプロの表情になる。
「緑川の動向だけど、やっぱりかなり焦ってるみたいだ。神尾に完全に拒絶された上に、営業一課への個別の接触も俺がブロックしてるからね。社内での立場を守るためか、今度は共同プロジェクトの進捗データをあえて遅らせて、神尾から連絡を入れさせようと画策してる形跡がある」
「仕事に私情を持ち込むなんて、プロとして最低ですね」
真白が冷徹な声で言う。その瞳には、秘書としてのプライドと、愛する人を守るための強さが宿っていた。
「ああ。緑川のその『焦り』こそが、こちらの最大のチャンスだ」
神尾が冷たい笑みを浮かべ、真白の肩にそっと手を添えた。
「本日、緑川から提出されるはずの進行管理データが遅延した時点で、俺と佐伯はあちらの会社の『プロジェクト管理責任者(緑川の上司)』へ直接、遅延に関する報告書を提出する。同時に――小鳥遊さん、例のログをお願いできますか」
「任せて」
聖良が不敵に笑う。
「緑川が定例会や役員フロアで、真白に対して行った、業務外の不適切な接触や発言のログ。監視カメラの映像データと合わせて、すでに常務名義の『コンプライアンス違反に関する抗議書』として一課に回せるよう、裏で申請を通してあるわ」
緑川が「蓮を揺さぶるため」に行ったすべての嫌がらせが、今や彼女自身の首を絞める強固な証拠(ログ)として、完璧に揃いつつあった。
「乾さん」
神尾が真白を見つめ、声音を優しく和らげる。
「もうすぐ、すべてが終わる。君を脅かすものは、俺が一つ残らず排除するから」
「はい。信じています、蓮さん」
真白が小さく、彼にしか聞こえない声でその名前を呼ぶ。
神尾は一瞬だけ目を見開き、それから愛おしさに耐えかねたように、佐伯と聖良の前であることも忘れて、真白の小さな手をぎゅっと握りしめた。
「ちょっと、廊下でイチャつかないでくれる? 作戦会議中なんですけどー」
「あはは、ごちそうさま。まあ、神尾がこれだけやる気なら、あの元カノも今週で見納めだな」
冷徹な包囲網が、緑川の知らないところで静かに、そして確実に閉じようとしていた。



