オタクな秘書の攻略方法〜来る者拒まず去る者追わずだった同期に一途に溺愛される

運命の金曜日。時計の針は午後20時を回っていた。
通常業務はとっくに終了し、24階の秘書課フロアは、パーテーションの向こうの非常灯と、真白のデスクの明かりだけが灯る静寂に包まれていた。
真白はすでに退社手続きを済ませ、コートも着て、あとはエレベーターに乗るだけの状態だった。
だが、彼女は帰れずにいた。
「嘘……嘘でしょ、今ここでゲリラ限定イベント開始とか、聞いてない……ッ!」
真白はデスクの影に身を潜めるようにして、個人のスマートフォンを握りしめていた。
画面に映っているのは、例の新作ゲーム『アルケディア・クロニクル』のアニメコラボ限定ガチャ画面。
なんと、金曜20時から20分間だけ、最高レアリティのキャラクターの排出率がアップする超緊急イベントが告知されたのだ。
「自宅までの移動時間は40分。今すぐ帰ったら、電車の中で電波が途切れて、ガチャの黄金タイムを逃す……!」
頭脳明晰な秘書は、瞬時に状況を整理した。
『誰もいないこのオフィスで、会社の超高速Wi-Fiを拝借し、ここで全力を尽くす。これが最も勝率が高い』
真白は周囲に誰もいないことを完全に確認すると、オフィスの椅子に深く腰掛け、両肘をデスクについてスマホを構えた。
「いくよ……私の全財産(ゲーム内通貨)、ここに注ぎ込む……!」
画面をタップする指先が、怒涛の勢いで動き始める。
その瞬間、彼女の顔から「完璧な秘書」の微笑みは完全に消え去った。
眉間にシワを寄せ、目を限界まで見開き、無意識のうちに唇をツンと前に尖らせる。
ズボラで、負けず嫌いで、大雑把な「素の乾真白」が、夜のオフィスに降臨していた。
「出ない! なんで!? 確率アップって詐欺じゃん! おい運営、仕事しろよぉ……!」
静かなフロアに、真白の小さな、しかし怨念のこもった愚痴が響く。
ゲームに集中しすぎるあまり、彼女は自分の背後から近づいてくる「足音」に、全く気づいていなかった。