オタクな秘書の攻略方法〜来る者拒まず去る者追わずだった同期に一途に溺愛される

金曜日の夜。
大仕事を終えた週末、真白の部屋のチャイムが鳴った。
ドアを開けると、そこにはいつものスーツを脱ぎ捨て、ラフなパーカー姿の蓮が立っていた。手には、真白が「美味しそう」と以前SNSを見て呟いていた、人気店のちょっと高価なピザの箱と、ノンアルコールビールが握られている。
「乾さん、お疲れ様。……本当に、お待たせしました」
「神尾さん……! プレゼン、本当にお疲れ様でした。さあ、早く入ってください」
お気に入りのアニメキャラがでかでかとプリントされた、いつものヨレヨレスウェット姿で彼を歓迎した。もう、お互いに仮面を被る必要なんてない。
リビングのローテーブルにピザを広げ、まずは乾杯する。
「本当におめでとうございます。社内でも、常務がずっと神尾さんのことを褒めちぎっていましたよ」
「ありがとう。乾さんのあのメモと差し入れがなかったら、最後の踏ん張りがきかなかった。……俺にとっては、乾さんこそがナンバーワンの秘書で、最高のパートナーだよ」
蓮はピザを頬張りながら、心の底からリラックスした笑顔を見せる。
オフィスでのピリッとした雰囲気から解放され、大好きな人の部屋で、大好きな人と過ごす時間。その贅沢さに、ふたりは自然と表情を綻ばせていた。
「さあ! 食べ終わったら、約束のゲームをやりましょう。神尾さん、ちゃんと予習はしてきましたか?」
「もちろん。乾さんに『下手くそ』って笑われないように、移動時間中に動画で立ち回りを勉強しておいたからね」
テレビモニターの前に並んで座り、ふたりはコントローラーを握る。
今回は、先週蓮が提案してくれた美麗グラフィックの最新アクションRPGの、二人協力プレイだ。
「よし、いきますよ! 私が前衛で敵を引きつけますから、神尾さんは後ろから魔法でサポートしてください」
「了解。……って、うわ、敵が急にこっちに向かってきた!」
「ああっ、神尾さん逃げて! 避けてください!」
画面の中をちょこまかと動き回る蓮のキャラクター。
予習してきたと言いつつも、本番の緊迫感に蓮は完全に形無しになり、コントローラーを握る手にぐっと力が入っている。
いつもはクールに1億超の案件を動かす男が、画面の中のスケルトン一体に本気で狼狽している姿が、真白には愛おしくてたまらない。
「ふふ、大丈夫です! 私が守りますから!」
真白は不敵に笑うと、見事な指さばきでコントローラーを操作し、蓮を襲おうとしていた敵を一瞬で薙ぎ払った。
「すごいな、乾さん。……かっこいい」
「当然です! 伊達に何年もこのジャンルをやり込んでいませんから。……ふふん、どうですか、私のキャリーは?」
勝ち誇ったように胸を張る真白。
そんな彼女の無邪気で誇らしげな横顔を、蓮はコントローラーを置き、ただじっと見つめていた。
「……神尾さん?」
不思議に思った真白が視線を戻した瞬間、蓮の長い腕がすっと伸びてきて、真白の腰を抱き寄せた。
ゲームのBGMだけが流れる静かな部屋。
ふんわりと重なる、お互いの体温。
「神尾、さん……ゲーム、まだ途中ですよ?」
「乾さんが優秀なプレイヤーすぎて、俺、すっかり魅了されちゃったみたいだ」
悪戯っぽく囁きながら、蓮は真白の頬を包み込み、そっと引き寄せた。
今度はオフィスでの短い抱擁とは違う。
彼の甘い吐息が、真白の唇を優しく、深く塞いでいく。
ゆっくりと、お互いの存在を確かめ合うような、砂糖よりも甘くて温かいキス。
「……っ」
唇が離れたとき、真白の顔はスウェットのキャラクターよりも真っ赤に染まっていた。
「これからも、たくさん俺をキャリーしてね。ゲームでも、現実でも」
そう言って、蓮は真白の額にコツンと自分の額をあてて、幸せそうに笑った。