オタクな秘書の攻略方法〜来る者拒まず去る者追わずだった同期に一途に溺愛される

帝都商事の本社ビルには、全社員が利用できるリフレッシュスペース、通称「カフェテリア」が15階にある。
昼休みの喧騒の中、真白は同期の聖良と並んで、窓際の席で社食のAランチ(チキン南蛮定食)を突ついていた。
「ねえ真白、昨日のゲーム、結局何時までやったの?」
「……朝の4時半。チュートリアルの後の最初のボスが強すぎて、3回全滅してさ。見てよこの親指、コントローラーの押しすぎでちょっと赤いでしょ」
真白はチキン南蛮を頬張りながら、悔しそうに唇を尖らせた。その姿は、24階の役員フロアで見せる「冷徹なほど有能な秘書」とは似ても似つかない。
「あんたねぇ……。よくそんな顔で会社来れるわ。あ、噂をすれば、営業部の『王子様』御一行のお出ましよ」
聖良の視線を追うと、カフェテリアの入り口から、一段と華やかなオーラを放つ一団が入ってきた。中心にいるのは、営業一課の神尾蓮だ。
相変わらず、周囲の後輩や同僚に爽やかな笑顔を振りまきながら、トレイを持って歩いている。
「あー、神尾くんね。確かに仕事はできるよね、営業一課の数字、彼が半分近く作ってるって噂だし」
真白は完全に他人事として、蓮のスペックを脳内で事務的に処理する。
「それだけ? 同じ同期なのに、相変わらず興味薄いわね。社内の女子、みんな彼に夢中なのに」
「私にとっては、ゲームの限定ガチャの排出率の方が重要だから」
その時、蓮がこちらに気づいた。
蓮は周囲にいた同僚に一言断ると、長い足を優雅に動かして、真白たちの席へと近づいてきた。
「乾さん、小鳥遊さん。お疲れ様です。ここ、隣空いてますか?」
極上の営業スマイル。真白は一瞬で「秘書の仮面」を起動し、背筋をピシッと伸ばして微笑み返した。
「神尾さん、お疲れ様です。ええ、どうぞ。コンペの勝利、おめでとうございます。役員フロアでも話題になっていましたよ」
「ありがとうございます。上層部にそう言っていただけると励みになります」
挨拶程度の短い会話。蓮は真白の隣のテーブルに座り、同期の佐伯拓海と仕事の話を始めた。
本人たちにとっては、ただの「同じ会社で働く同期の、社交的な挨拶」。
真白はすぐに自分の世界に戻り、蓮もまた、爽やかなエースの顔のまま、真白のことなど気にも留めていない様子だった。
この時までは、お互いに「ただの背景」でしかなかったのだ。