月曜日の午前9時。
週明けの秘書課オフィスは、役員会議の準備と各部署からの承認申請書類の処理で、戦場のような忙しさを見せていた。
「乾さん、10時からの取締役会の資料、役員分の差し替えは終わってる?」
「はい、チーフ。先ほど営業部から上がってきた最新の売上予測データを反映し、すべてファイリングを完了して役員室のデスクへ配置いたしました」
「さすが、仕事が早くて助かるわ」
真白はタイトスカートの裾を正し、淀みのない動作で次のタスクへと移る。
神尾蓮と心が通じ合い、恋人同士になった。
その事実で胸は満たされているが、一歩会社に入れば真白の「完璧な秘書」のスイッチは冷徹にオンになる。
むしろ、公私混同を最も嫌う彼女だからこそ、今まで以上に隙のないプロフェッショナルな仕事を心がけていた。
午前11時。
真白が常務のスケジュール調整のため、営業一課のフロアへと足を運んだ時のことだ。
「神尾、先週の新規案件の契約書、取引先から修正要望が入った。午後イチで法務部とすり合わせて、今日中に再提出頼めるか?」
「分かりました、課長。法務部のスケジュールを今すぐ押さえて、15時までには修正版を作成します」
営業フロアのデスクで、蓮がいつも以上の鋭い目付きでPCを叩き、テキパキと指示を処理していた。
社内での彼は、甘い恋人の顔など微塵も見せない「営業一課のエース・神尾蓮」そのものだ。その無駄のない仕事ぶりに、周囲の同僚たちからも信頼の眼差しが向けられている。
「あ、乾さん。常務への報告書ですか?」
佐伯が、真白に気づいて声をかけてきた。
「はい、佐伯さん。常務から営業一課の今期進捗状況について、至急でデータが欲しいと仰せつかりまして」
「あー、それなら神尾がちょうどさっきまとめてたよな。おい、神尾」
佐伯に呼ばれ、蓮が顔を上げる。
蓮の視線が真白と交わった。一瞬だけ、彼の切れ長の瞳が優しく緩んだように見えたが、次の瞬間にはビジネスライクな引き締まった表情に戻る。
「乾さん、こちらのデータです。常務が確認しやすいよう、セグメント別にグラフ化しておきました」
「ありがとうございます、神尾さん。大変助かります」
書類を受け取る指先が、ほんの一瞬だけ触れ合う。
傍から見れば、よくある「優秀な営業部員と、優秀な秘書のスマートなやり取り」にしか見えない。
周囲の営業部員たちも、それぞれのPCに向かって忙しそうに電話をかけており、二人の間の微かな温度変化に気づく者は誰もいなかった。
真白が会釈をしてフロアを去ろうとした時、佐伯がニヤリと笑いながら小声で蓮の肩を小突いたのが見えた。
「相変わらず完璧な連携だな、お二人さん?」
「……仕事中だ、佐伯。静かにしろ」
蓮は表情を変えずに、けれど少しだけ耳の後ろを赤くして佐伯を睨みつけている。
オフィスという、誰もが仮面を被って戦うパブリックな場所。
だからこそ、その忙しい日常の隙間で、お互いのプロフェッショナルな姿に改めて惹かれ合う。
乾真白と神尾蓮の、新しい「秘密の日常」が、ここから静かに回り始めていた。
週明けの秘書課オフィスは、役員会議の準備と各部署からの承認申請書類の処理で、戦場のような忙しさを見せていた。
「乾さん、10時からの取締役会の資料、役員分の差し替えは終わってる?」
「はい、チーフ。先ほど営業部から上がってきた最新の売上予測データを反映し、すべてファイリングを完了して役員室のデスクへ配置いたしました」
「さすが、仕事が早くて助かるわ」
真白はタイトスカートの裾を正し、淀みのない動作で次のタスクへと移る。
神尾蓮と心が通じ合い、恋人同士になった。
その事実で胸は満たされているが、一歩会社に入れば真白の「完璧な秘書」のスイッチは冷徹にオンになる。
むしろ、公私混同を最も嫌う彼女だからこそ、今まで以上に隙のないプロフェッショナルな仕事を心がけていた。
午前11時。
真白が常務のスケジュール調整のため、営業一課のフロアへと足を運んだ時のことだ。
「神尾、先週の新規案件の契約書、取引先から修正要望が入った。午後イチで法務部とすり合わせて、今日中に再提出頼めるか?」
「分かりました、課長。法務部のスケジュールを今すぐ押さえて、15時までには修正版を作成します」
営業フロアのデスクで、蓮がいつも以上の鋭い目付きでPCを叩き、テキパキと指示を処理していた。
社内での彼は、甘い恋人の顔など微塵も見せない「営業一課のエース・神尾蓮」そのものだ。その無駄のない仕事ぶりに、周囲の同僚たちからも信頼の眼差しが向けられている。
「あ、乾さん。常務への報告書ですか?」
佐伯が、真白に気づいて声をかけてきた。
「はい、佐伯さん。常務から営業一課の今期進捗状況について、至急でデータが欲しいと仰せつかりまして」
「あー、それなら神尾がちょうどさっきまとめてたよな。おい、神尾」
佐伯に呼ばれ、蓮が顔を上げる。
蓮の視線が真白と交わった。一瞬だけ、彼の切れ長の瞳が優しく緩んだように見えたが、次の瞬間にはビジネスライクな引き締まった表情に戻る。
「乾さん、こちらのデータです。常務が確認しやすいよう、セグメント別にグラフ化しておきました」
「ありがとうございます、神尾さん。大変助かります」
書類を受け取る指先が、ほんの一瞬だけ触れ合う。
傍から見れば、よくある「優秀な営業部員と、優秀な秘書のスマートなやり取り」にしか見えない。
周囲の営業部員たちも、それぞれのPCに向かって忙しそうに電話をかけており、二人の間の微かな温度変化に気づく者は誰もいなかった。
真白が会釈をしてフロアを去ろうとした時、佐伯がニヤリと笑いながら小声で蓮の肩を小突いたのが見えた。
「相変わらず完璧な連携だな、お二人さん?」
「……仕事中だ、佐伯。静かにしろ」
蓮は表情を変えずに、けれど少しだけ耳の後ろを赤くして佐伯を睨みつけている。
オフィスという、誰もが仮面を被って戦うパブリックな場所。
だからこそ、その忙しい日常の隙間で、お互いのプロフェッショナルな姿に改めて惹かれ合う。
乾真白と神尾蓮の、新しい「秘密の日常」が、ここから静かに回り始めていた。



