オタクな秘書の攻略方法〜来る者拒まず去る者追わずだった同期に一途に溺愛される

「……神尾さん、それ、どうしたんですか?」
平日の昼下がり、誰もいない給湯室で、真白は蓮の手元を見て目を丸くした。
蓮が持っていたのは、少し懐かしい平成初期のロボットアニメのキャラクターが描かれた、コラボ缶コーヒーだった。
「これ? コンビニで見かけて、つい。乾さんから『王道の熱い展開ならこれがお勧め』って聞いて、配信サイトで一気に全話観たんだ。名作って言われるだけあって、15話の主人公の覚醒シーン、すごく熱かったな」
「えっ……本当に観てくれたんですか!?」
「うん。それとね」
蓮は少し嬉しそうにスマートフォンを取り出し、画面を真白に見せた。そこには、最新の話題作である美麗グラフィックのオープンワールドRPGの画面が映っていた。
「乾さんが今プレイしてるゲームの制作会社が、新しく出したやつだろう? 乾さんの好きそうなダークファンタジーの要素が詰まってたから、事前に調べて少し進めておいたんだ。これ、二人協力プレイもできるみたいだから、今週末、一緒にやらない?」
「神尾さん……っ」
真白は驚きと、それ以上に胸にこみ上げる愛おしさで言葉を失った。
彼は仕事の合間や移動などの僅かな隙間時間を使って、真白が好みそうな作品を必死に調べてくれていたのだ。
古いレトロな名作から、今まさにSNSでトレンド入りしている最新の話題作まで。「乾さんなら、きっとここが好きだと思う」「このキャラ、乾さんの推しに属性が似てない?」と、驚くほど的確な提案をしてくれる。
「私に追いつこうとして、たくさん調べてくれたんですね」
「追いつきたいよ。だって、乾さんが楽しそうに語る熱量をもっと同じ目線で共有したいし、何より、俺自身も乾さんのおかげで、ゲームやアニメの楽しさを知ることができたから」
蓮はそう言って、悪戯っぽく笑った。
「最近は、営業一課のデスクで仕事しながら『今日の夜はあのクエストを進めよう』って考えてる自分に驚くよ。佐伯に『お前、完全に乾さんに染まったな』って呆れられた」
「ふふ、佐伯さんの言う通りですね」
真白の口から、自然と柔らかな笑みが溢れる。
以前は自分のオタク趣味を「誰にも言えない秘密」として、孤独に楽しむものだと思い込んでいた。
けれど今、目の前の愛する人が、自分の世界を心から尊重し、一緒になって楽しんで、同じ熱量で笑い合ってくれている。
それがどれほど奇跡のようで、幸せなことか。
「じゃあ、今週末は……神尾さんが調べてくれたゲームで、一晩中ダブルスですね」
「うん。乾さんにたくさんキャリーしてもらうのを楽しみにしているよ。……あ、でも、ちゃんと睡眠時間は取ってね?」
「ふふ、お互い様です」
給湯室の隅で、お互いに見つめ合ってクスクスと笑い合う。
まだお互いの指先すら触れ合っていない、けれどふたりの空気は、どんな甘い言葉よりも深く、温かい絆で満たされていた。