オタクな秘書の攻略方法〜来る者拒まず去る者追わずだった同期に一途に溺愛される

応接室の薄暗い照明の中で、真白の目からぽろりと零れ落ちた涙。
それを見た瞬間、俺の胸の奥は、これまでにないほど激しく締め付けられた。
彼女が口にした「ファーストキスへのささやかな夢」。
それを自分の傲慢さと焦りで踏みにじってしまったことへの、二度目の、そして何よりも深い後悔が全身を支配する。
だが、彼女はそんな俺を拒絶するためにここへ呼んだのではなかった。
完璧な秘書の仮面を自ら外し、自分の「弱点」だと思い込んでいるオタクな素顔をさらけ出して、真っ直ぐに俺を見つめている。
『それでも、本当にいいんですか?』
震える声でそう問いかけてくる真白が、あまりにも愛おしくて、あまりにも眩しくて。
「……乾さん」
俺はもう、一歩も躊躇わなかった。
テーブルを回り込み、彼女との距離を一気にゼロにする。
怯えさせないように、けれど二度と離さないという強い意志を込めて、彼女の華奢な肩を優しく、しっかりと抱き寄せた。
「いいに決まってる。……いや、それがいいんだ」
腕の中で小さく息を呑む真白の体温が、ダイレクトに胸に伝わってくる。
「綺麗に着飾った秘書の乾さんも素敵だけど、俺を狂わせたのは……あの時、秘書課フロアの自席の傍で、誰もいないと思ってスマホを握りしめて、全力でガチャを引いて一喜一憂していた乾さんなんだ。……普段の完璧な姿からは想像もつかないくらい、子供みたいに無邪気に、真っ直ぐ熱くなっている姿を見て、俺は一瞬で目を奪われた」
彼女の背中に回した手に、ぎゅっと力を込める。
「家でスウェットを着ていようが、ゲームに夢中になっていようが、俺にとっては乾真白という存在そのものが、世界で一番特別で、愛おしい。そんな乾さんだから、好きになったんだ」
ゆっくりと体を離し、真白の潤んだ瞳を真っ直ぐに見つめた。
今度は顎を強引に掴んだりしない。彼女の意志を、彼女のすべてを尊重するように、優しくその頬に手を添える。
「一生かけて謝る。一生かけて、乾さんの『大好きな人』になってみせる。だから……俺に、乾さんを泥臭く愛し抜く資格をくれないか」
俺の告白に、真白の瞳からまた新たな涙が溢れ出た。
けれど、今度の涙は冷たくなかった。
「……ばか」と小さく呟きながら、真白の小さな手が、俺のシャツの胸元をぎゅっと握りしめる。
その瞬間、俺たちの間にあった分厚い壁は、跡形もなく崩れ去った。
二度目のキスは、静まり返った夜の応接室で。
彼女の夢見た「大好きな人とする、優しくて温かいキス」に、少しでも届くようにと願いを込めて、深く、静かに、何度も唇を重ね合わせた。