翌朝、帝都商事の12階。生活産業グループのフロアは、朝から電話のベルと怒号に近い活気に包まれていた。
「神尾! 昨日の繊維素材のコンペ、うちが勝ち取ったぞ! 競合の三田物産を出し抜けたのは、お前のプレゼンのおかげだ!」
「ありがとうございます、課長。でも、これは工場の手配を迅速に進めてくれたアシスタントの皆さんや、チーム全員の努力の成果です。僕一人ではとても」
そう言って、爽やかな極上の笑みを浮かべたのは、営業一課のエース・神尾蓮だった。
180センチの長身に、仕立ての良いグレーのスーツ。整った甘い顔立ちに宿る、誠実そうで紳士的な眼差し。彼の笑顔一つで、社内の女性陣のみならず、気難しい取引先の重役までがコロリと懐柔される。
「さすが神尾くんだわ、謙虚で素敵……」
後輩の女子社員たちがため息をつくのを、蓮は「じゃあ、今日も一日頑張りましょう」と爽やかにあしらい、自分のデスクに戻った。
カチャ、とシステム手帳を閉じた瞬間。
蓮の顔から、すべての表情が綺麗に消え失せた。
「……はぁ。うぜぇ」
極小の声で呟かれた毒。デスクの陰で、蓮は冷え切った、底暗い瞳でPCのモニターを見つめていた。
「おい、また顔が『死んだ魚』になってるぞ、詐欺男子」
隣の席からニヤニヤしながら声をかけてきたのは、同期の佐伯拓海だ。蓮の「裏の顔」を知る数少ない男である。
「うるさい。1ミリも興味ない相手に笑顔を振りまくのが、どれだけカロリー使うと思ってる」
「お前、本当に外面だけは世界遺産級に綺麗だけど、中身は冷徹な機械だな。少しは寄ってくる女に興味持てよ。選びたい放題だろ?」
「来るもの拒まず、去るもの追わず。来る女はみんな、俺の『営業スマイル』っていう記号に惚れてるだけ。中身なんか見てない。だから、どいつもこいつも退屈で、一晩抱いたら飽きる」
蓮は冷淡に言い放ち、完璧に整理整頓されたデスクのペン立ての位置を1ミリ単位で微調整した。極度の綺麗好きで、無駄を嫌う合理主義者。それが彼の本性だった。
「お前、いつか自分の首を絞めるような、とんでもねえ女に捕まるぞ」
「あり得ないね。俺を揺さぶれる奴なんて、この世にいないよ」
蓮はフッと冷たく笑うと、再び「爽やかな営業エース」の仮面をピタリと貼り付け、内線電話を取った。
「神尾! 昨日の繊維素材のコンペ、うちが勝ち取ったぞ! 競合の三田物産を出し抜けたのは、お前のプレゼンのおかげだ!」
「ありがとうございます、課長。でも、これは工場の手配を迅速に進めてくれたアシスタントの皆さんや、チーム全員の努力の成果です。僕一人ではとても」
そう言って、爽やかな極上の笑みを浮かべたのは、営業一課のエース・神尾蓮だった。
180センチの長身に、仕立ての良いグレーのスーツ。整った甘い顔立ちに宿る、誠実そうで紳士的な眼差し。彼の笑顔一つで、社内の女性陣のみならず、気難しい取引先の重役までがコロリと懐柔される。
「さすが神尾くんだわ、謙虚で素敵……」
後輩の女子社員たちがため息をつくのを、蓮は「じゃあ、今日も一日頑張りましょう」と爽やかにあしらい、自分のデスクに戻った。
カチャ、とシステム手帳を閉じた瞬間。
蓮の顔から、すべての表情が綺麗に消え失せた。
「……はぁ。うぜぇ」
極小の声で呟かれた毒。デスクの陰で、蓮は冷え切った、底暗い瞳でPCのモニターを見つめていた。
「おい、また顔が『死んだ魚』になってるぞ、詐欺男子」
隣の席からニヤニヤしながら声をかけてきたのは、同期の佐伯拓海だ。蓮の「裏の顔」を知る数少ない男である。
「うるさい。1ミリも興味ない相手に笑顔を振りまくのが、どれだけカロリー使うと思ってる」
「お前、本当に外面だけは世界遺産級に綺麗だけど、中身は冷徹な機械だな。少しは寄ってくる女に興味持てよ。選びたい放題だろ?」
「来るもの拒まず、去るもの追わず。来る女はみんな、俺の『営業スマイル』っていう記号に惚れてるだけ。中身なんか見てない。だから、どいつもこいつも退屈で、一晩抱いたら飽きる」
蓮は冷淡に言い放ち、完璧に整理整頓されたデスクのペン立ての位置を1ミリ単位で微調整した。極度の綺麗好きで、無駄を嫌う合理主義者。それが彼の本性だった。
「お前、いつか自分の首を絞めるような、とんでもねえ女に捕まるぞ」
「あり得ないね。俺を揺さぶれる奴なんて、この世にいないよ」
蓮はフッと冷たく笑うと、再び「爽やかな営業エース」の仮面をピタリと貼り付け、内線電話を取った。



