金曜日の18時半。
オフィスビルが立ち並ぶ大手町の裏路地にある、落ち着いた雰囲気のカフェバー。
カウンターの隅の席に、佐伯拓海と小鳥遊聖良が向かい合って座っていた。
「……で? 神尾の様子はどうなわけ?」
聖良は冷たいアイスティーのグラスを指先で弄びながら、探るような目を佐伯に向けた。
佐伯は苦笑しながら、注文したクラフトビールを一口煽る。
「どうもこうもないよ。あの神尾蓮が、完全に『乾真白専用の防衛システム』と化してる。社内の男が少しでも乾さんに近寄ろうとしたら、光の速さでブロックしに行くし、秘書課と営業一課の間に立つ仕事は全部自分で引き取って、乾さんの残業をゼロにするために死に物狂いでタスクをこなしてるよ」
「へえ、あの『外面完璧男』がね。少しは反省が行動に出てるみたいじゃない」
聖良はふんと鼻を鳴らした。
だが、その声からは以前ほどのトゲは消え、少しだけ呆れたような、感心したようなニュアンスが混ざっている。
「マジで反省してるんだよ」
佐伯は真剣な表情になり、聖良を見つめた。
「あいつ、これまで女のことで頭を抱えるなんて一度もなかったんだ。いつも冷めてて、適当にあしらってた。それが今は、乾さんの体調とか、仕事の負担とか、そればっかり気にしてる。……あいつのあんな必死なツラ、俺も初めて見たんだ」
聖良は少し沈黙し、窓の外に広がるオフィス街の夜景に視線を移した。
「……真白もね、頑なになってるけど、バカじゃないから気づいてるよ」
「え、乾さん、何か言ってた?」
「何も言わない。言わないけど、仕事中にふとした瞬間、神尾くんの後ろ姿を目で追ってるの。怒りとか拒絶っていうより……『どうしてここまでされるのか分からない』って、混乱してる感じ。あの子、恋愛の初期バグに完全にバグらされてる状態だから」
聖良はクスッと小さく笑った。
真白が、いつも通り完璧に仕事をこなそうとキーボードを叩きながらも、蓮が陰で回してくれたサポートに気づくたび、耳たぶをほんのり赤くしていることを、隣のデスクの聖良は見逃していなかった。
「乾さん、ガードは固いけど、一回心を開いたらとことん一途なタイプだろ? 漫画のキャラクターに対してもそうだし」
「そうそう。推しに対しての忠誠心は国家レベルよ。だからこそ、現実の男にそれを向けるのが怖いんでしょ」
聖良はグラスを置き、まっすぐに佐伯を見た。
「神尾くんが本気なのは、私もこの間の飲み会と、今の真白への態度で分かった。でもね、無理に距離を詰めようとしたら絶対にダメ。真白のペースに合わせて、ゆっくり『一人の男』として信頼を築き直させなさい。佐伯くんからも、そう釘を刺しておいて」
「了解。あいつの首輪は俺がしっかり握っておくよ」
佐伯は頼もしく笑い、自分のグラスを聖良のグラスにカチンと軽く合わせた。
オフィスビルが立ち並ぶ大手町の裏路地にある、落ち着いた雰囲気のカフェバー。
カウンターの隅の席に、佐伯拓海と小鳥遊聖良が向かい合って座っていた。
「……で? 神尾の様子はどうなわけ?」
聖良は冷たいアイスティーのグラスを指先で弄びながら、探るような目を佐伯に向けた。
佐伯は苦笑しながら、注文したクラフトビールを一口煽る。
「どうもこうもないよ。あの神尾蓮が、完全に『乾真白専用の防衛システム』と化してる。社内の男が少しでも乾さんに近寄ろうとしたら、光の速さでブロックしに行くし、秘書課と営業一課の間に立つ仕事は全部自分で引き取って、乾さんの残業をゼロにするために死に物狂いでタスクをこなしてるよ」
「へえ、あの『外面完璧男』がね。少しは反省が行動に出てるみたいじゃない」
聖良はふんと鼻を鳴らした。
だが、その声からは以前ほどのトゲは消え、少しだけ呆れたような、感心したようなニュアンスが混ざっている。
「マジで反省してるんだよ」
佐伯は真剣な表情になり、聖良を見つめた。
「あいつ、これまで女のことで頭を抱えるなんて一度もなかったんだ。いつも冷めてて、適当にあしらってた。それが今は、乾さんの体調とか、仕事の負担とか、そればっかり気にしてる。……あいつのあんな必死なツラ、俺も初めて見たんだ」
聖良は少し沈黙し、窓の外に広がるオフィス街の夜景に視線を移した。
「……真白もね、頑なになってるけど、バカじゃないから気づいてるよ」
「え、乾さん、何か言ってた?」
「何も言わない。言わないけど、仕事中にふとした瞬間、神尾くんの後ろ姿を目で追ってるの。怒りとか拒絶っていうより……『どうしてここまでされるのか分からない』って、混乱してる感じ。あの子、恋愛の初期バグに完全にバグらされてる状態だから」
聖良はクスッと小さく笑った。
真白が、いつも通り完璧に仕事をこなそうとキーボードを叩きながらも、蓮が陰で回してくれたサポートに気づくたび、耳たぶをほんのり赤くしていることを、隣のデスクの聖良は見逃していなかった。
「乾さん、ガードは固いけど、一回心を開いたらとことん一途なタイプだろ? 漫画のキャラクターに対してもそうだし」
「そうそう。推しに対しての忠誠心は国家レベルよ。だからこそ、現実の男にそれを向けるのが怖いんでしょ」
聖良はグラスを置き、まっすぐに佐伯を見た。
「神尾くんが本気なのは、私もこの間の飲み会と、今の真白への態度で分かった。でもね、無理に距離を詰めようとしたら絶対にダメ。真白のペースに合わせて、ゆっくり『一人の男』として信頼を築き直させなさい。佐伯くんからも、そう釘を刺しておいて」
「了解。あいつの首輪は俺がしっかり握っておくよ」
佐伯は頼もしく笑い、自分のグラスを聖良のグラスにカチンと軽く合わせた。



