オタクな秘書の攻略方法〜来る者拒まず去る者追わずだった同期に一途に溺愛される

翌朝。真白はベッドから起き上がることができなかった。
「頭が……重い……」
ファーストキスを奪われたショックと、一晩中泣き明かしたことによる極度の精神的疲労。
さらにここ数日の寝不足が重なり、真白は完全に知恵熱を出して倒れてしまった。
体温計の数値は38.2度。完璧な秘書になって以来、体調不良で会社を休むことなど一度もなかったのに。
スマホで会社に欠勤の連絡を入れた後、真白は死んだように目を閉じた。
(ゲームすら、する気になれない……)
静まり返った部屋で、ぽつりとメッセージの受信音が鳴る。画面を見ると、同期の聖良からだった。
『真白、今日休み!? チーフから聞いてびっくりした。風邪? 大丈夫?』
真白は重い腕を動かし、フリック入力で返信する。
『ちょっと熱出しちゃって……。心配かけてごめん』
それから数時間後。
午後15時を回った頃、真白のマンションのインターホンが静かに鳴った。
「真白ー、聖良だよ。ポカリとかお粥のレトルトとか買ってきたから、開けられる?」
ドアを開けると、心配そうな顔をした聖良が立っていた。
「ちょっと、顔真っ赤じゃない。すぐ横になって!」
聖良は手際よく買ってきたものを冷蔵庫にしまい、冷えピタを真白の額に貼ってくれた。
枕元に座った聖良は、真白の弱々しい様子をじっと見つめ、そっとその手を握った。
「ねえ、真白。あんた、ただの風邪じゃないでしょう。……ゲームのしすぎで知恵熱出すようなヤワな奴じゃないのは、私が一番よく知ってる」
「……聖良」
「何かあったの? いつもと様子が違いすぎる。私に、言えないこと?」
聖良の優しく、すべてを受け止めるような声に、真白の心の決壊が崩れた。
張り詰めていた負けず嫌いの仮面が溶けて、再び目から涙が溢れ出す。
「あのね、聖良……っ。……私、神尾くんに……キス、されたの」
真白はシーツをぎゅっと握りしめ、金曜日の夜にテラスで起こったこと、自分の趣味がバレて弱みを握られたと思っていたこと、そして――「いつか大好きな人と、温かい部屋でするはずだった」ファーストキスを奪われて、悲しくて、悔しくて仕方がなかったことを、すべて正直に打ち明けた。
静かに話を聞いていた聖良は、驚きに目を見張り、それから少し深く考え込むように視線を落とした。
「……そっか。そんなことがあったんだね。辛かったね、真白」
聖良はそれ以上、神尾を責めることも、真白をからかうこともしなかった。
ただ、真白が少しでも眠れるようにと、帰る時間ギリギリまで頭をなで、そばに寄り添い続けてくれた。
「じゃあ、私もう行くね。明日は少し楽になってるといいけど」
「うん……聖良、本当にありがとう。だいぶ楽になったよ」
真白が少しだけ穏やかな表情で眠りにつくのを見届け、聖良はそっとマンションを後にした。
しかし、エントランスを出て夜風に吹かれた瞬間、聖良の顔から優しい笑みが消えた。
聖良は立ち止まり、バッグからスマートフォンを取り出す。
そして、ある連絡先を画面に呼び出し、迷うことなく通話ボタンを押した。
「――もしもし、佐伯くん? 悪いんだけど、今すぐ神尾くんを呼び出してもらえる?……うん、今から。絶対に、あいつの化けの皮を剥ぎ倒してやらないと気が済まないから」
聖良の目は、親友を傷つけられた怒りと、確固たる決意で満ちていた。