オタクな秘書の攻略方法〜来る者拒まず去る者追わずだった同期に一途に溺愛される

「ただいまーーッ! 帰ったぞ我が聖域!」
午後7時。都内にある築15年の1Kマンションに滑り込むなり、乾真白は「完璧な秘書」の殻を文字通り脱ぎ捨てた。
ストッキングを剥ぎ取り、メイクをクレンジングシートでガシガシと拭き取る。
クローゼットから引っ張り出したのは、高校時代から愛用している、膝が擦り切れて毛玉だらけの緑色のスウェットだ。
髪は適当なクリップで頭のてっぺんにお団子状にまとめ、伊達メガネを装着する。
「ふぅ……生きた心地がする」
冷凍餃子をフライパンに並べて火にかけ、その間にPCとPS5の電源を入れる。
モニターが起動し、美しいファンタジー世界のタイトル画面が映し出された瞬間、真白の目がオタク特有の鋭い光を放った。
スマホが振動する。同期で唯一の親友、人事部の小鳥遊聖良からのメッセージだ。
『真白、無事に定時退社できた? 新作ゲーム、もう始めてる?』
餃子を口に放り込みながら、真白は片手で高速フリック入力を返す。
『今ログインした! チュートリアル神すぎる。グラフィック最高』
『相変わらずそっちのモードに入ると早いわね(笑) 会社のみんなに見せてやりたいわ。あの「秘書室のクールビューティー」が、ボロボロのスウェット着て、唇尖らせてゲームのコントローラー握り潰しそうになってる姿をさ』
『うるさいよ。会社は擬態、これが本体。人間、オンとオフの切り替えが大事なの』
聖良からは『はいはい、残念美人さん。夜更かししすぎて明日遅刻すんなよー』と呆れたスタンプが送られてきた。
「遅刻なんて、プロの秘書がするわけないでしょ」
真白は不敵に笑うと、ポテトチップスの袋を歯で引きちぎり、ゲームの世界へと没頭していった。ゲームに集中すると、無意識に唇がアヒルのようにツンと尖る。それが彼女の、幼少期からの抜けない癖だった。