オタクな秘書の攻略方法〜来る者拒まず去る者追わずだった同期に一途に溺愛される

「ねえ、真白。ちょっといい?」
その日の午後、給湯室。
真白が役員用のお茶の準備をしていると、同期の人事部・小鳥遊聖良がこっそりと入ってきた。周囲に誰もいないことを確認すると、聖良は真白の肩をポンと叩く。
「な、何? 聖良。驚かせないでよ」
「ちょっと、緊急事態。今日のお昼、カフェテリアで神尾くんの隣にいた佐伯くんから連絡があったんだけどね」
真白はピクリと眉を動かした。また「神尾蓮」の名前だ。ここ数日、彼の存在が自分の平穏な生活にチラつきすぎていて、心臓に悪い。
「佐伯くんが、何? 営業の話?」
「違うわよ。佐伯くんが言うにはね……『神尾が最近、乾さんのことを異常に気にしてる。スマホで彼女の趣味について血眼になって調べてるぞ』って」
「……はぁっ!?」
真白は思わず、手にしたティースプーンをトレイに落としそうになった。
「し、調べてるって、何を……!?」
「あんたが大好きな『プリファン』のイベント情報とか、ゲームの攻略情報とかじゃない? ほら、この前コラボチョコもらったんでしょ? あれ、神尾くんが必死にリサーチして手に入れた可能性が高いってことよ」
真白の頭の中が、一瞬でパニックに陥った。
(な、何のために……!?)
恋愛経験が完全にゼロで、二次元の推ししか愛してこなかった真白にとって、「異性が自分を意識して、自分の趣味を調べてアプローチしてくる」というシチュエーションは、もはや未知のウイルスに襲われるような恐怖に近い。
「やっぱり……やっぱり、あの男、私を泳がせて面白がってるんだわ! 私のオタク趣味をエサにして、完璧な秘書としてのメッキが剥がれるのを観察して楽しんでるのよ! 最悪の性格!」
真白はキーッと怒りを滲ませ、唇をツンと尖らせた。
「いやいや、真白。それ、普通に考えて『アプローチ』だから。好意よ、好意!」
「あるわけないでしょ、相手はあの神尾蓮だよ!? 狙うならもっと、受付嬢とか、マナー美人な他部署の女子とか、いくらでもいるじゃない。私みたいな、ボロ……コホン、中身が残念なオタク女を相手にするメリットが彼にないもの!」
負けず嫌いな真白の脳は、傷つかないための「防衛本能」と「超合理主義」によって、蓮の行動をすべて『意地悪なゲーム』と定義してしまっていた。
「とにかく、絶対にペースに飲まれない。私は完璧な秘書。あんな完璧男子に、これ以上私の領域を侵入させないんだから!」
固く決意する真白に、聖良は「あーあ、こりゃ前途多難ね……」と深くため息をつくのだった。