「……おい神尾。お前、さっきからスマホで何見てるんだ?」
木曜日のランチタイム。カフェテリアのいつもの席で、同期の佐伯拓海は訝しげに蓮の顔を覗き込んだ。
蓮はトレイに乗った日替わりパスタ(バジルソース)を綺麗に一口サイズに巻き取りながら、片手で個人のスマートフォンをフリックしていた。
その顔は、いつもの営業用のスマイルではなく、完全に感情の消えた「冷徹な無表情(素の顔)」だ。
「別に。何でもない」
「何でもない顔じゃないだろ。目が完全に『仕事で競合を潰しに行く時の目』になってるぞ」
佐伯が身を乗り出して画面を盗み見ようとしたが、蓮はそれを察知して、流れるような動作でスマホを裏返した。
一瞬だけ佐伯の網膜に映ったのは、カラフルな二次元キャラクターたちの画像と、謎のゲームの攻略Wikiらしき文字だった。
「……え、待て。お前、アニメのコラボ情報とか見てたか?」
「…………」
蓮は沈黙した。否定もしないが、肯定もしない。ただ、冷ややかな瞳で佐伯を無言で威圧している。
「嘘だろ。お前、二次元に目覚めたのか? あの『効率至上主義・来る女は適当にあしらう詐欺男子』の神尾蓮が?」
「うるさい。ただの市場調査だ。生活産業グループとして、ポップカルチャーの市場価値をだな……」
「お前がプライベート端末でそんな調べるわけねぇだろ。というか、そのアニメ、確か秘書室の……」
佐伯の脳内で、パズルのピースがカチリと嵌まった。
今朝、廊下ですれ違った際、神尾が秘書課の乾真白を一瞬だけ、だが熱を孕んだ目で追っていたのを、佐伯は見逃していなかった。
「お前、乾さん狙ってんの?」
「……『狙う』とか、そういう安い言葉で括らないでほしいね」
蓮はそう言うと、パスタに添えられたフォークをそっと置き、冷たく笑った。
「あの女、面白いんだよ。会社では鉄壁の仮面被って完璧に仕事こなしてるくせに、誰も見てないところでは、驚くほど子供みたいに無防備で。……しかも、あんなに有能なのに、めちゃくちゃお人好しで優しい」
「……おいおい」
佐伯は、背筋が少し寒くなるのを感じた。
蓮は「来るものは拒まず、去るものは追わず」の超冷感男子だったはずだ。
自分から特定の女性にここまで強い関心を示し、しかもその内面を細かく観察して「面白い」などと言ったことは、入社以来一度もない。
「言っとくけどな、神尾。乾さんは社内でもファンが多いけど、男っ気が一切ないことで有名だぞ。恋愛に全く興味ないらしい」
「知ってる。だからこそ、やり甲斐がある」
綺麗に整えられた蓮の指先が、スマホの画面をそっと叩いた。
そこには、真白が熱愛するゲームの最新イベントスケジュールが表示されている。
(恋愛に興味がない、か。……だったら、まずは俺のことを『天敵』としてでもいいから、その頭の中に無理矢理にでもねじ込むだけだ)
爽やかエースの仮面の下で、超一途で、そして少し歪んだ独占欲が、静かに鎌首をもたげていた。
木曜日のランチタイム。カフェテリアのいつもの席で、同期の佐伯拓海は訝しげに蓮の顔を覗き込んだ。
蓮はトレイに乗った日替わりパスタ(バジルソース)を綺麗に一口サイズに巻き取りながら、片手で個人のスマートフォンをフリックしていた。
その顔は、いつもの営業用のスマイルではなく、完全に感情の消えた「冷徹な無表情(素の顔)」だ。
「別に。何でもない」
「何でもない顔じゃないだろ。目が完全に『仕事で競合を潰しに行く時の目』になってるぞ」
佐伯が身を乗り出して画面を盗み見ようとしたが、蓮はそれを察知して、流れるような動作でスマホを裏返した。
一瞬だけ佐伯の網膜に映ったのは、カラフルな二次元キャラクターたちの画像と、謎のゲームの攻略Wikiらしき文字だった。
「……え、待て。お前、アニメのコラボ情報とか見てたか?」
「…………」
蓮は沈黙した。否定もしないが、肯定もしない。ただ、冷ややかな瞳で佐伯を無言で威圧している。
「嘘だろ。お前、二次元に目覚めたのか? あの『効率至上主義・来る女は適当にあしらう詐欺男子』の神尾蓮が?」
「うるさい。ただの市場調査だ。生活産業グループとして、ポップカルチャーの市場価値をだな……」
「お前がプライベート端末でそんな調べるわけねぇだろ。というか、そのアニメ、確か秘書室の……」
佐伯の脳内で、パズルのピースがカチリと嵌まった。
今朝、廊下ですれ違った際、神尾が秘書課の乾真白を一瞬だけ、だが熱を孕んだ目で追っていたのを、佐伯は見逃していなかった。
「お前、乾さん狙ってんの?」
「……『狙う』とか、そういう安い言葉で括らないでほしいね」
蓮はそう言うと、パスタに添えられたフォークをそっと置き、冷たく笑った。
「あの女、面白いんだよ。会社では鉄壁の仮面被って完璧に仕事こなしてるくせに、誰も見てないところでは、驚くほど子供みたいに無防備で。……しかも、あんなに有能なのに、めちゃくちゃお人好しで優しい」
「……おいおい」
佐伯は、背筋が少し寒くなるのを感じた。
蓮は「来るものは拒まず、去るものは追わず」の超冷感男子だったはずだ。
自分から特定の女性にここまで強い関心を示し、しかもその内面を細かく観察して「面白い」などと言ったことは、入社以来一度もない。
「言っとくけどな、神尾。乾さんは社内でもファンが多いけど、男っ気が一切ないことで有名だぞ。恋愛に全く興味ないらしい」
「知ってる。だからこそ、やり甲斐がある」
綺麗に整えられた蓮の指先が、スマホの画面をそっと叩いた。
そこには、真白が熱愛するゲームの最新イベントスケジュールが表示されている。
(恋愛に興味がない、か。……だったら、まずは俺のことを『天敵』としてでもいいから、その頭の中に無理矢理にでもねじ込むだけだ)
爽やかエースの仮面の下で、超一途で、そして少し歪んだ独占欲が、静かに鎌首をもたげていた。



