すると黒井さんが、目元をハンカチで押さえながら言った。
「もうなんか泣きそうです」
「いや、もう泣いてますよね?」
思わずツッコミを入れたくなるほど、黒井さんは感極まっていた。
今回の大会─日本華道芸術花誉展。
華道界で最も格式の高い大会。出場できるのは、宗家や家元から推薦された、確かな実力を持つ者だけ。その審査員席には、伊織くんの父の姿もあった。この大会の特徴は、華道では珍しく、制限時間内で花をいける“過程”も審査対象になること。
花材に触れる手つき、迷い、呼吸、姿勢。そのすべてが評価される。
私は特別に許可を得て、会場の端から見学させてもらえることになった。
静かな空気の中、花の香りだけが漂っている。
伊織くんは落ち着いていた。いつも通りの、あの静かな集中。
だが、一瞬だけ手を止めた。どうしたのだろう。
ぱちりと目が合う。その瞬間、柔らかく微笑んで、向日葵にそっとキスを落としてから花をいけた。思わず胸が跳ねる。
その所作は、“技術”ではなく“想い”で花を扱う人の手だった。
審査員席の真斗さんも、その瞬間を見ていた。厳しい眼差しの奥で、わずかに表情が揺れた気がした。
「もうなんか泣きそうです」
「いや、もう泣いてますよね?」
思わずツッコミを入れたくなるほど、黒井さんは感極まっていた。
今回の大会─日本華道芸術花誉展。
華道界で最も格式の高い大会。出場できるのは、宗家や家元から推薦された、確かな実力を持つ者だけ。その審査員席には、伊織くんの父の姿もあった。この大会の特徴は、華道では珍しく、制限時間内で花をいける“過程”も審査対象になること。
花材に触れる手つき、迷い、呼吸、姿勢。そのすべてが評価される。
私は特別に許可を得て、会場の端から見学させてもらえることになった。
静かな空気の中、花の香りだけが漂っている。
伊織くんは落ち着いていた。いつも通りの、あの静かな集中。
だが、一瞬だけ手を止めた。どうしたのだろう。
ぱちりと目が合う。その瞬間、柔らかく微笑んで、向日葵にそっとキスを落としてから花をいけた。思わず胸が跳ねる。
その所作は、“技術”ではなく“想い”で花を扱う人の手だった。
審査員席の真斗さんも、その瞬間を見ていた。厳しい眼差しの奥で、わずかに表情が揺れた気がした。



