向日葵は彩る君に恋をした


「よし、黒井」

「はっ」

気づけば、メガネをかけたスーツ姿の男性が背後に控えていた。まるで影のように気配を消していたのに、呼ばれた瞬間に姿勢を正す。

「始める。案内してくれ」

「はい。お嬢さん、こちらへどうぞ」

「あ、はい……」

ぺこっと頭を下げると、青年がふわりと微笑んだ。うわぁ……かっこよい。心臓が一瞬だけ跳ねた。案内された広間には十数人が集められていて、皆静かに腰をかけている。空気が張りつめていて、まるで式典のようだ。私は一番後ろの端の席に通された。青年が前に立ち、声を張る。

「お待たせしました。
九条 伊織による、お家元披露を始めさせていただきます」

九条伊織。名前まで綺麗だ。九条さんはすっと頭を下げ、花器の前に立つ。その瞬間、空気が変わった。
息を呑むような静けさの中、彼は花ばさみを手に取り、茎を切る。その所作は流れるようで、無駄が一つもない。花に触れる指先は驚くほど優しく、まるで花の呼吸に合わせて動いているみたいだった。
紫陽花を主役に据えた生花が、少しずつ形を成していく。
青い花弁が光を受けて淡く揺れ、添えられた葉や枝が絶妙な角度で空間を支える。完成した瞬間、広間の空気がふっと震えた気がした。
青い紫陽花を中心に据えたその生花は、息を呑むほど美しかった。私は思わず、胸の奥が熱くなるのを感じた。