向日葵は彩る君に恋をした

「慣れてるな」

後ろから見ていた九条さんが、ぽつりと呟いた。

「まあ、昔から花は好きなので」

「……そう」

少しだけ柔らかい声だった。

「あの、なんて呼べばいいですか?」

「唐突だな」

「九条くん?」

首を傾げると、即答した。

「九条はいやだな。伊織でいい」

「じゃあ伊織くんで。私は葵です」

「わかった、葵」

名前を呼ばれただけで、胸が少し跳ねた。伊織くんは真っ直ぐこちらを見て言った。

「俺は……華道家としての夢を諦めたくない。
だから大会で結果を残して、親父を認めさせたい。
協力してほしい」

すっと頭を下げる。

「初対面のやつに頼むお願いじゃないってわかってる。
だけど、葵は花の知識もある。下処理も水揚げも丁寧だし、仕事ができると判断した。
金は払う。
だから三ヶ月間協力してほしい」

……真っ直ぐなお願い。案外いい奴なのかもしれない。

「……わかりました。
私も今日の腕前を見て、華道家をやめてしまうのは勿体ないと思いましたし……寂しいです。
協力します」

その言葉に、伊織くんはふわりと笑った。その瞬間ぎゅんっと胸が掴まれた。

「む、胸が痛い……」

「はあ?心臓悪いのか?かかりつけの医者呼ぶか?」

スマホを構えられる。

「だ、大丈夫……」

「……あーそう」

その雑な返事が、なぜか少しだけ優しく聞こえた。