そして。
鞄の中から、小さな箱を取り出した。
「これ。母さんが渡したかったもの」
「……?」
箱を開ける。
中に入っていたのは、腕時計だった。
「時計?」
「湊、普段あんまり時計つけないと思うけど……どうしても渡したかったの」
俺は時計を見つめる。
どこか懐かしい。
でも。
すぐには思い出せなかった。
「これね」
母さんが優しく笑う。
「小さい頃、湊が欲しがってた時計なの」
「……俺が?」
「うん。覚えてるよ」
その言葉を聞いて、胸の奥が熱くなった。
母さんは。
覚えていてくれたんだ。
俺が小さい頃に欲しがっていたものを。
離れていた時間が長くても。
俺のことを、ちゃんと覚えていてくれた。
俺は時計を手に取る。
母さんも、その時計にそっと手を添えた。
二人で時計を握りしめる。
「……ありがとう、母さん」
「うん」

