テキパキと冒険者たちの依頼を捌き、無口ながらも時折浮かべる微笑みが可愛い、受付の女の子。
その姿を見つめながら、私はふと思いついたことを口にした。
「ねえ、レオンさん。私、王宮での『派遣型修復師』の雇用契約期間が一年で終わったら、やっぱりギルドの受付嬢になるのもいいなって思うんです」
「……なんだと?」
「だって、冒険者ギルドの受付って、シフト制で定時退社できそうじゃないですか。書類の整理とか、前世の事務仕事みたいで私に向いてると思うし。お給料も安定してそうですし!」
私がウキウキと将来のキャリアプラン。
すなわち完全ホワイト労働を語ると、レオンさんはみるみるうちに恐ろしい死神の顔になり、ギルド内の気温がマイナスまで急降下し始めた。
「俺の、俺だけの可愛いユフィを……毎日こんなむさ苦しい男どもの目に晒すだと? 絶対に許可しない」
「ええ〜。でも、このギルドは女の子多いですし、私だって自立したお仕事がしたいんですよ」
「……ならば、このギルドごと俺が買い取ろう。そして冒険者は全員出入り禁止にして、俺だけが毎日お前のカウンターに依頼書を提出しに行く」
「それじゃただの受付嬢ごっこじゃないですか!!」
極端すぎる過保護っぷりに、私は全力でツッコミを入れた。
ポケットの中では、シロが呆れたように「きゅむっ」と鳴いている。
「まったくもう。騎士団長としての仕事もあるのに、そんなことできるわけないじゃないですか」
「俺はいつだって本気だぞ。ユフィ、お前が愛しすぎるのが悪い」
レオンさんは周囲の目も憚らず、私の腰をぐいっと引き寄せて、困ったように笑う私の唇に、キスを落とした。
ギルドの中にいた冒険者たちが「ひゅーっ!」と冷やかしてくるけれど、今の私には、それすら祝福のように思えた。
伝説の『転生乙女』だとか、世界を救う力だとか、そんな大層なものは私にはよくわからない。
私はただの元社畜で、ちょっと便利なスキルを持っているだけの、平凡な女の子だ。
でも、世界中の誰よりも私を愛してくれる氷の王子様と一緒なら。
これからの異世界ライフも、きっと最高に幸せになるに違いないから――。
「……ねえ、レオンさん」
賑やかな仲間たちの笑い声をBGMに、私は繋いだ彼の手を、きゅっと握り返した。
「なんだ? ユフィ」
「私、あの日家を追い出されて、本当によかったです。……じゃなきゃ、この街にも来なかったし、レオンさんにも出会えなかったですから」
ゴミスキルだと罵られ、所持金は銀貨三枚だけになって辿り着いたこの街。
今なら胸を張って言える。
あれは、この最高のハッピーエンドに向かうための、一番の近道だったのだと。
私の言葉に、レオンさんはほんの一瞬だけ目を丸くして――それから、たまらないといった様子で私の額にこつんと自分の額を合わせた。
「……お前を家から追い出した連中には、万死に値する怒りしか湧かないが。お前がそう笑ってくれるなら、今日だけは許してやろう」
「ふふっ。何様ですか」
「お前の、ただ一人の夫だ」
窓から差し込む柔らかな陽だまりの中、私たちはもう一度、キスをした。
彼と繋いだ手は、ひどく温かい。
ギルドの受付嬢になって定時退社を満喫する夢への道のりは、この過保護な旦那様のせいでまだまだ遠そうだけれど。
激重な氷の王子様を、誰よりも幸せにするという『一生モノの特大クエスト』も、悪くないなと思う。
<Happy end>


