ギルドに戻り、受付のお姉さんに修復完了のサインをもらった私は、大満足で依頼達成の銅貨を受け取った。
「おうおう、辺境まで何しに来たかと思えば、初心者クエストでイチャついてるだけじゃねえか!」
ギルドのホールに、地響きのような豪快な声が響き渡った。
「ガルドさん!」
私が振り返ると、そこには腕を組んでニヤニヤ笑うギルドマスターのガルドさんが立っていた。
「久しぶりだな、ユフィ。いや、噂には聞こえてきたが、今や公爵令嬢で王子妃殿下か。……って、おい、その旦那の殺気をどうにかしろ。ギルドが凍るぞ」
「俺のユフィに馴れ馴れしく話しかけるな」
レオンさんが私を背後に庇い、ガルドさんをキッと睨む。
そこへ、ギルドの重い扉が悲鳴を上げるような勢いで開け放たれた。
「ガルドォォォ! 今日も俺様の討伐数がトップ……おっ、ユフィじゃねえか! ついに、結婚したんだってな? おめでとう!」
筋肉の塊のような大男、ブロンさんが魔物の返り血の匂いを撒き散らしながら飛び込んできた。
「ブロンさん! お久しぶりです!」
「おう! 結婚祝いに、この街最強の俺様が仕留めた特大のドラゴンモドキの肉を……」
ブロンさんが差し出した肉の塊が、レオンさんの冷気によって一瞬でカッチカチの氷塊に変わった。
「俺の妻に血生臭いものを近づけるな。それから、最強なのは俺だ」
「ひえっ!?」
「ブロン、君は相変わらず騒がしいな。新婚旅行の空気が台無しじゃないか」
音もなく窓から滑り込んできたのは、細身のエルフ、リュートさんだ。
「リュートさんも! 相変わらず窓から来るんですね」
「君たちの甘い噂が777セロン先から風に乗って聞こえてきたからね。言祝ぎを紡ぎに来たのさ」
さらに、部屋の隅から紫煙が立ち上り、ローブを纏ったグリゼルダさんが現れた。
「ひっひっひ。いい生気が溢れているねぇ。新婚さん特有の生気は、極上のご馳走だよ。アタシには刺激が強すぎるねぇ」
「グリゼルダさんまで!」
懐かしいギルドの面々が勢揃いして、私は嬉しさで胸がいっぱいになった。
しかし、感動の再会はこれだけでは終わらなかった。
突然、ギルドの入り口でピンク色の煙を伴う大爆発が起きたのだ。
「ゲホッ、ゴホッ……! ああもう、転移魔法陣の座標軸が0・2ずれた!」
ススだらけの白衣姿で現れたのは、マッドサイエンティスト魔女のリーゼルさんだ。
「ユフィちゃーん! 結婚おめでとう! ボク特製の初夜着ちゃんと使ってくれたー? 今度はフリル増し増し新婚旅行用ネグリジェ、持ってきたよ!」
可愛いゴスロリ姿の男の娘、ココちゃんが目をキラキラさせて飛びついてこようとする。
「ユフィに触れるな! そしてその肌が透けそうな破廉恥な布地を今すぐ燃やせ!!」
レオンさんがココちゃんの前に氷の壁を作り出し、ネグリジェを全力で拒絶している。
「こらこら、新婚夫婦を困らせるんじゃないよ」
杖をついて現れたのは、見た目は幼女、中身は百戦錬磨の魔女の長ミルさんだ。
「ミルさん! リーゼルさんもココちゃんも、わざわざ魔女の森から来てくれたんですか?」
「お前さんが来てるって聞いてね。結婚祝いに、アタシからこれをやろうと思ってさ」
ミルさんがニヤリと笑って取り出したのは、かつて私の修行の卒業祝いにくれた、あの怪しくピンク色に光る小瓶だった。
「ま、待ってくださいミルさん! 『惚れ薬』はもう間に合ってますから!」
私が慌てて止めようとしたが、レオンさんがスッとその小瓶を奪い取った。
「ほう……惚れ薬、だと?」
「レ、レオンさん!? 飲んじゃダメですよ! これ以上私に惚れちゃったら、愛が重すぎて私が潰れちゃいます!」
「俺がユフィを愛する気持ちは、すでに限界を突破している。だが、お前がこれ以上俺を好きになるというのなら、喜んで飲み干そう!」
「だからストーーーップ!!」
私が全力で旦那様のマントを引っ張って止めていると、ギルドのメンバーや魔女たちが一斉にドッと笑い声を上げた。
何も持っていなかった私を、受け入れてくれたこの場所の温かさは変わらない。


