転生令嬢は謎の騎士に溺愛されています!?~地味スキルと言われましたが【待機】と【接続】で料理も魔法も思いのまま? 辺境から幸せになります!~



 私が、女神様と対面を果たしていた頃、現実世界のアルヴェリア王宮では。

「ユフィ!? おい、ユフィ!! 目を覚ませッ!!」

 会議室でレオンさんに抱きしめられた直後、私が突然糸が切れたように気を失ったことで、王宮は蜂の巣をつついたような大騒ぎになっていた。

「医者を呼べ! 息はあるが、意識が戻らない! くそっ、何が起きたんだ!」

 レオンさんが私を抱き抱えたまま、半狂乱になって叫んでいる。
 シベリウス様とセーリナ様も青ざめ、すぐさま王家直属の宮廷医を総動員したが、私が倒れた原因は全く不明だった。

「おそらく『転生乙女』の覚醒に関わる何かだろう。書物庫の文献をすべて洗え!」

 シベリウス様の号令で、国中の学者たちが古文書を漁り始めた。
 しかし、神話の記録は欠片ばかりで、「神の塔へ至る」「試練の眠り」といった意味不明な記述しか見つからない。

 ――そして、私が目覚めないまま、なんと一ヶ月が経過してしまった、らしい。

 その間、レオンさんは一切の職務をまたしてもシベリウス様に丸投げし、ただひたすらに私のベッドの傍らで手を握り続けていた。
 あの美しい顔はげっそりとやつれ、目の下には深い隈ができている。
 だが、眠り続ける私を見つめる翡翠の瞳には、恐ろしいほどの執着と、痛いほどの愛情が宿ったままだった。

 一方、セーリナ様とシベリウス様は、ただ手をこまねいていたわけではなかった。

「ユフィがいつ目覚めてもいいように、盤石な体制を整えておかねばなりませんね」

「ああ。レオンの正式な妻として迎え入れるためにも、彼女の身分をアルヴェリアの有力貴族の養女にしてしまおう。幸い、宰相派を一掃したことで、我が派閥の筆頭公爵が喜んで引き受けてくれた」

 私が呑気に神の塔で女神様に説教されている間に、現実世界では、私の身分が『平民(元・追放された他国の伯爵令嬢)』から『アルヴェリア王国筆頭公爵令嬢』へと、とんでもないクラスチェンジを果たす下準備が完了していたのだ。

「あとは、彼女の産みの親である実家に、正式な挨拶へ行く手はずを整えるだけですね」

 セーリナ様が優雅に扇を揺らす。
 そんな、外堀が完全に埋まりきったことなど露知らず。

「ん、んん……?」

 私がようやく神の塔から精神を帰還させ、現実世界でゆっくりとまぶたを開けたのは、ちょうどその時だった。

「……ユ、フィ……?」

 視界に映ったのは、ボロボロになりながらも私の手を力強く握りしめている、氷の狂犬の信じられないほど安堵に満ちた顔。

「おはようございます、レオンさん。なんだか、すごく長く寝ていたような……」

 私が小さく微笑んで声をかけた瞬間。
 レオンさんは「あぁ……っ」と掠れた嗚咽を漏らしながら、私の首筋に顔を埋めて、まるで迷子から見つかった子供のように、ポロポロと涙を流して泣き崩れた。