転生令嬢は謎の騎士に溺愛されています!?~地味スキルと言われましたが【待機】と【接続】で料理も魔法も思いのまま? 辺境から幸せになります!~

 えっと、ここどこ……。

 見渡す限りの青空と、眼下に広がる白い雲海。
 私は、360度ガラス張りになった、不思議な高い塔の最上階に立っていた。

「きゅきゅっ!」

 ふいに、ポケットの中にいたシロが飛び出し、眩い光を放ちながらふわりと宙に浮き上がった。

『我は女神の使い。よくぞここまで辿り着いた、異界の魂を持つ者よ』

 脳内に直接響く、荘厳で威厳のある声。

 シ、シロ……いきなりキャラ変わってない!?

『なんて、おどろいたか? 主』

「驚くっていうか、どうしたの」

『主を、ここまで連れてくるのが、我のおしごとなのだ! きゅい』

 状況をまったく分かっていない私の目の前で、シロは器用に浮いたまま胸を反らしドヤ顔をしていて、ちょっと可愛い。

 呑気な感想を思い浮かべているところ、ガラスの向こう側が光り輝き、神々しい美しさを放つ超絶美女様の姿が浮かび上がった。

『ユフィ―リアよ……貴女は、この世界を導く『転生乙女』として選ばれました。肉体は現実世界に残し、今、貴女の精神だけをこの聖なる塔へ招き入れています……』

 美女様は、慈愛に満ちた微笑みで優しく語りかけてくる。

『奇跡をもたらす真の力に目覚めるためには、貴女の魂の半身となる『番(つがい)』を選ばなくてはなりません。そして、選ばれし騎士に対し、貴女の純潔……乙女を捧げる儀式を行うのです。さあ、貴女の心に決めた騎士は――』

「あの、すみません、女神様? でしょうか」

 私は空気を読まずに、恐る恐る手を挙げた。
 乙女とか……純潔とか……ってまさか。
 そーいうことを指しているんだろうか。

「その……純潔……なら、ついこの間、港町の宿屋でもう捧げちゃったんですけど……」

 王宮での夜は、辛うじて、なんというかその最後までは致してなくて。
 キスして、そのあと色々されているうちに、気絶しちゃってたんだよね……。

 ピタッ。
 女神様らしき美女の動きが、完全に停止した。

『捧げた? もう?』

「出張先の特別室がベッド一つしかなくて、その……私の王子様が激重というか、ものすごく手際が良くてですね」

『ええええええっ!? 順番!! 神聖な覚醒の儀式をすっ飛ばして何してるのよ貴女たち!!』

 慈愛に満ちていたはずの女神様が、いきなり素に戻って頭を抱え始めた。
 そして、まるで八つ当たりするかのように、ぎろりと女神様がシロを睨みながら、首元を摘まみあげる。

『黒龍よ、そちを下界に下ろしたのは……!』

『レオンが火酒くれたのだ。目をつぶっている代わりにー!』

『あのね、普通こういうのは! 危機を前にして、二人の絆を確かめ合う感動的なクライマックスでやるものでしょう!? なんでただの出先で済ませちゃってるのよ!!』

「だ、だって、前世から恋愛経験値ゼロだったので、押し切られちゃって……もう私にはあれ以上『待て』をさせるテクニック無かったんです!」

『ああもう、これだから最近の転生者は! はあ、もうどうでもいいわ、勝手に幸せになりなさい!! はい、覚醒完了!』

 まさかの事後報告に、神々しい空間の空気は一気に台無しになってしまった。
 こうして、伝説の転生乙女の覚醒イベントは、女神様の盛大なツッコミとともにグダグダな終わりを迎えたっぽい。