「通用するさ、宰相閣下」
激昂する宰相の言葉を遮ったのは、これまで黙って書類に目を通していたシベリウス様だった。
彼は分厚い羊皮紙の束を、バンッと円卓の中央に叩きつけた。
「ユフィは我が王家の正式な雇用人だ。彼女の技術は生活基盤の維持に不可欠であり、不当な引き抜きや異動は、王太子である僕が許可しない」
「若造が……っ、私に逆らう気か!? この国の財政と軍議の過半数を握っているのは、私だぞ!」
「ええ、知っていますとも。その『財政』についてですがね」
シベリウス様が、王様みたいな威厳を纏って微笑んだ。
「過去十年間にわたる、宰相派の貴族たちによる不正な資金流用、他国への密輸、そして領地での不当な重税。……すべての証拠が、ここに揃っています。ユフィが地下の文書庫の書類を修復してくれたおかげで、隠滅されたはずのよからぬ書類もろもろが、綺麗に復元できましてね。これを父王が知るところになったらどうなるでしょうねえ……」
その瞬間、宰相とその後ろにいた貴族たちの顔から、サーッと血の気が引いた。
「毒婦」を演じ、敵の懐で情報を集め続けたセーリナ様。
そして、その情報を元に、徹夜で裏付け調査を完了させたシベリウス様。
義理親子の完璧な連携プレイによる、完膚なきまでの政治的包囲網。
「な、ば、馬鹿な……っ」
「お父様……。貴方の時代は終わったのです。これ以上、私のかわいい息子と、未来の娘候補の邪魔をするというのなら……実の親であろうと、容赦はしませんよ。そろそろ隠居なさいませ。わたくし所有の荘園には温泉が湧いておりますし、保養されるならお譲りしますよ?」
セーリナ様が扇を閉じ、冷酷なまでに美しい顔で言い放つ。
長ったらしい嫌味とともに、追い詰められていく宰相たち。
(すごい……前世のドロドロの派閥争い会議とは比べ物にならないくらい、鮮やかで無駄がない……! 敵には回したくない!)
私はすっかり観客気分で、その鮮やかな手腕に拍手を送りそうになっていた。


