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かくして、私とレオンさん。そしてポケットの中のシロは、王家専用の豪奢な馬車に揺られ、一路南の港町へと向かうことになった。
「わぁ……すごい! 海だ!」
数日の旅程を経て、ルナポルトの街に到着した私は、馬車の窓から身を乗り出して歓声を上げた。
私の母国は内陸にあったため、本物の海を見るのはこれが初めてだ。
キラキラと太陽の光を反射して輝く、どこまでも青く広い海。
潮の香りが混じった風が、頬を心地よく撫でていく。
「ユフィ、危ない。あまり身を乗り出すな、落ちたらどうする」
はしゃぐ私の腰に、背後からすっと力強い腕が回された。
レオンさんが私を抱き寄せるようにして、背後から同じ窓の景色を覗き込んでくる。
背中にぴったりと張り付く分厚い胸板と、首筋にかかる熱い吐息に、私はビクッと肩を跳ねさせた。
「だ、大丈夫ですよ。馬車はゆっくり走っていますし」
「海風で体が冷えないか? 日差しも強い。もし潮風がお前の肌を傷つけるようなら、俺が風の軌道を変えよう」
「そんなことしたら、海辺の街に来た意味がなくなっちゃいます!」
過保護すぎる提案に、私は慌ててツッコミを入れた。
王宮の外に出たことで、レオンさんの『ユフィ絶対守るマン』としての警戒心と溺愛っぷりは、さらに拍車がかかっているようだ。
「到着しました、殿下、ユフィ様。あちらが問題の魔力灯台です」
御者の声に促され、私たちは馬車を降りた。
港の岬にそびえ立つ、石造りの立派な灯台。
その周囲には、困り果てた顔をした港の責任者や、現地の職人たちが集まっていた。
「ああっ、レオンティウス殿下! よくぞお越しくださいました。……しかし、修復の専門家を連れてきてくださると伺っておりましたが、そちらの可愛らしいご令嬢は?」
港の責任者が、私を見て不思議そうに首を傾げる。
無理もない。
大国の重要なインフラを直す職人が、ひよっこにしか見えない若い女なのだから。
「彼女がその専門家だ。不満か?」
レオンさんが一瞬で絶対零度の威圧感を放ち、責任者の男が「ひぃっ!」と悲鳴を上げて後ずさる。
「レ、レオンさん、睨まないでください! 皆さんが怖がってますから!」
私は慌てて彼の腕を引くと、コホンと咳払いをして、港の人々に向き直った。
「アルヴェリア王宮より派遣されてまいりました、修復師のユフィと申します。さっそくですが、砕けた鏡の破片は全て集めてありますか?」
そして、私は腕まくりをして、見上げるほど巨大な灯台へと足を踏み出したのだが……。
「そ、それが……誠に申し訳ございません! 破片の大部分は回収したのですが、重要な中心部分の欠片がいくつか足りないのです」
港の責任者が、青い顔をしてペコペコと頭を下げた。
「足りない? 嵐で海に落ちてしまったんですか?」
「いえ、海に落ちたものは網を使って全て引き上げました。問題は……この辺りの崖に生息する『輝煌鳥(きこうちょう)』という魔鳥でして。キラキラと光るものを巣に持ち帰る習性があるのです。砕け散った巨大な鏡の破片を、見事に持っていかれてしまい……」
責任者が指さしたのは、港町の背後にそびえ立つ、険しい岩山だった。
どうやらあの山の頂上付近に、その魔鳥の巣があるらしい。
私の【接続】スキルは、あくまで「物理的にそこにあるパーツ」をくっつけるものだ。
パーツ自体が紛失していては、どうにもならない。
「あの山の上に巣があるんですね」
「はい。しかし崖は険しく、凶暴な魔鳥の群れを退けながら山を登れるような腕の立つ冒険者が、この町にはおらず……」
責任者が言葉を濁した、その瞬間。
隣に立っていたレオンさんが、スッと腰の剣の柄に手をかけた。
「事情はわかった。ユフィ、少し下がっていろ。俺があの山ごと氷漬けにして、鳥どもを根絶やしにして破片を取り返してこよう」
「待って待って待ってください!!」
私は慌ててレオンさんの腕にしがみついた。
冗談でもなんでもなく、この狂犬王子様なら本当に山を一つ更地にしてしまいかねない。
「そんなことをしたら山の生態系が崩れますし、もしがけ崩れが起きたらこの港町まで被害が出ちゃいます! ここは穏便に、私たちが山を登って破片を回収しましょう!」
「だが、お前をあのような険しい山道で歩かせるわけには……」
「大丈夫です! 私、ルシェルシェの森で毎日薬草採取のために歩き回ってましたから、体力には自信があります!」
私の必死の説得に、レオンさんは不満げに眉をひそめながらも、剣を鞘に収めてくれた。
「……お前がそういうなら、仕方ない。だが、少しでも疲れたらすぐに言え。俺がお前を抱えて登るからな」
「自分の足で歩けますってば!」
優雅な海辺の出張ミッションは、突如として過酷な山登りへと変更された。
かくして、私とレオンさん。そしてポケットの中のシロは、王家専用の豪奢な馬車に揺られ、一路南の港町へと向かうことになった。
「わぁ……すごい! 海だ!」
数日の旅程を経て、ルナポルトの街に到着した私は、馬車の窓から身を乗り出して歓声を上げた。
私の母国は内陸にあったため、本物の海を見るのはこれが初めてだ。
キラキラと太陽の光を反射して輝く、どこまでも青く広い海。
潮の香りが混じった風が、頬を心地よく撫でていく。
「ユフィ、危ない。あまり身を乗り出すな、落ちたらどうする」
はしゃぐ私の腰に、背後からすっと力強い腕が回された。
レオンさんが私を抱き寄せるようにして、背後から同じ窓の景色を覗き込んでくる。
背中にぴったりと張り付く分厚い胸板と、首筋にかかる熱い吐息に、私はビクッと肩を跳ねさせた。
「だ、大丈夫ですよ。馬車はゆっくり走っていますし」
「海風で体が冷えないか? 日差しも強い。もし潮風がお前の肌を傷つけるようなら、俺が風の軌道を変えよう」
「そんなことしたら、海辺の街に来た意味がなくなっちゃいます!」
過保護すぎる提案に、私は慌ててツッコミを入れた。
王宮の外に出たことで、レオンさんの『ユフィ絶対守るマン』としての警戒心と溺愛っぷりは、さらに拍車がかかっているようだ。
「到着しました、殿下、ユフィ様。あちらが問題の魔力灯台です」
御者の声に促され、私たちは馬車を降りた。
港の岬にそびえ立つ、石造りの立派な灯台。
その周囲には、困り果てた顔をした港の責任者や、現地の職人たちが集まっていた。
「ああっ、レオンティウス殿下! よくぞお越しくださいました。……しかし、修復の専門家を連れてきてくださると伺っておりましたが、そちらの可愛らしいご令嬢は?」
港の責任者が、私を見て不思議そうに首を傾げる。
無理もない。
大国の重要なインフラを直す職人が、ひよっこにしか見えない若い女なのだから。
「彼女がその専門家だ。不満か?」
レオンさんが一瞬で絶対零度の威圧感を放ち、責任者の男が「ひぃっ!」と悲鳴を上げて後ずさる。
「レ、レオンさん、睨まないでください! 皆さんが怖がってますから!」
私は慌てて彼の腕を引くと、コホンと咳払いをして、港の人々に向き直った。
「アルヴェリア王宮より派遣されてまいりました、修復師のユフィと申します。さっそくですが、砕けた鏡の破片は全て集めてありますか?」
そして、私は腕まくりをして、見上げるほど巨大な灯台へと足を踏み出したのだが……。
「そ、それが……誠に申し訳ございません! 破片の大部分は回収したのですが、重要な中心部分の欠片がいくつか足りないのです」
港の責任者が、青い顔をしてペコペコと頭を下げた。
「足りない? 嵐で海に落ちてしまったんですか?」
「いえ、海に落ちたものは網を使って全て引き上げました。問題は……この辺りの崖に生息する『輝煌鳥(きこうちょう)』という魔鳥でして。キラキラと光るものを巣に持ち帰る習性があるのです。砕け散った巨大な鏡の破片を、見事に持っていかれてしまい……」
責任者が指さしたのは、港町の背後にそびえ立つ、険しい岩山だった。
どうやらあの山の頂上付近に、その魔鳥の巣があるらしい。
私の【接続】スキルは、あくまで「物理的にそこにあるパーツ」をくっつけるものだ。
パーツ自体が紛失していては、どうにもならない。
「あの山の上に巣があるんですね」
「はい。しかし崖は険しく、凶暴な魔鳥の群れを退けながら山を登れるような腕の立つ冒険者が、この町にはおらず……」
責任者が言葉を濁した、その瞬間。
隣に立っていたレオンさんが、スッと腰の剣の柄に手をかけた。
「事情はわかった。ユフィ、少し下がっていろ。俺があの山ごと氷漬けにして、鳥どもを根絶やしにして破片を取り返してこよう」
「待って待って待ってください!!」
私は慌ててレオンさんの腕にしがみついた。
冗談でもなんでもなく、この狂犬王子様なら本当に山を一つ更地にしてしまいかねない。
「そんなことをしたら山の生態系が崩れますし、もしがけ崩れが起きたらこの港町まで被害が出ちゃいます! ここは穏便に、私たちが山を登って破片を回収しましょう!」
「だが、お前をあのような険しい山道で歩かせるわけには……」
「大丈夫です! 私、ルシェルシェの森で毎日薬草採取のために歩き回ってましたから、体力には自信があります!」
私の必死の説得に、レオンさんは不満げに眉をひそめながらも、剣を鞘に収めてくれた。
「……お前がそういうなら、仕方ない。だが、少しでも疲れたらすぐに言え。俺がお前を抱えて登るからな」
「自分の足で歩けますってば!」
優雅な海辺の出張ミッションは、突如として過酷な山登りへと変更された。


