備品管理室から連れ出された私は、レオンさんの私室である、見晴らしの良い部屋へと案内されていた。
ふかふかの長椅子に並んで座ると、レオンさんは誇らしげに両手に抱えていた豪奢なバスケットをテーブルに置いた。
「さあ、食べてくれ。お前のために、料理長に特別に腕を振るわせたんだ」
「わぁ……!」
パカッと蓋が開かれると、そこにはまるで宝石箱のような光景が広がっていた。
香ばしく焼き上げられた最高級の厚切り肉に、彩り豊かな野菜の付け合わせ、そして果汁が滴るような新鮮な果物。
私の母国なら、貴族の晩餐会でしかお目にかかれないような豪華なご馳走が、綺麗に詰め込まれている。
「すごく美味しそうです……! いただきます」
私が木製のフォークを手に取ろうとした、その時だった。
レオンさんが私の手からスッとフォークを奪い取ると、一番美味しそうなお肉を刺して、私の口元へと差し出してきたのだ。
「ほら、あーん、だ」
「えっ!? いや、あの、自分で食べられますから!」
「……俺は、お前に尽くしたいんだが」
翡翠の瞳が、ふいに捨てられた子犬のようにしょんぼりと伏せられる。
天下の氷の狂犬にそんな顔をされてしまっては、断れるはずがない。
私は顔から火が出そうになりながら、おずおずと口を開けた。
「……あ、あーん」
「うん、いい子だ」
ぱくりとお肉を口に含むと、とろけるような肉の旨味と甘いソースの香りが口いっぱいに広がった。
美味しい。
めちゃくちゃ美味しいけれど、隣から熱烈すぎる視線を向けられていて、味が半分くらいしかわからない。
「美味しいか?」
「は、はい。とても……。でも、レオンさんも食べてください。お仕事で疲れているでしょうし」
「俺はお前が食べている姿を見ているだけで胸がいっぱいだから、いらない」
「そういうわけにはいきません!」
いくら騎士任務で日頃から鍛えているとはいえ、しっかり栄養を摂らないと倒れてしまう。
私はレオンさんの手からフォークを取り返すと、彩りの綺麗な野菜を刺して、今度は私が彼の口元へと突き出した。
「ほら、レオンさんも、あーん、です!」
勢いでやってしまったものの、冷静になるととんでもなく恥ずかしい。
しかし、レオンさんは目を丸くして驚いた後、ふっと蕩けるような笑みを浮かべた。
「……あぁ。お前からの手ずからの一口なら、毒でも喜んで飲み込もう」
「毒なんて入ってませんから!」
ぱくり、と。
彼が私の手から野菜を食べる。
その時、わざとなのか彼の唇がわずかに私の指先に触れて、ビクッと肩が跳ねてしまった。
「ユフィ」
「な、なんですか」
「俺は今、世界で一番幸せだ」
ただの野菜を一口食べただけなのに、レオンさんは本気で感動しているようだった。
その真っ直ぐで重すぎる愛情に、私の胸の奥がまたドクンと音を立てる。
美味しいご飯と、甘すぎる時間。
王宮での労働環境は、なんだか色々な意味で心臓に悪そうだけれど、悪くないかもしれない。
私は火照る頬を誤魔化すように、「お肉もどうぞ!」ともう一口、彼の口に料理を押し込んだ。


