転生令嬢は謎の騎士に溺愛されています!?~地味スキルと言われましたが【待機】と【接続】で料理も魔法も思いのまま? 辺境から幸せになります!~

 ふかふかの天蓋付きベッドで目を覚ました私は、朝日が差し込む天井を見つめながら、昨晩の出来事を思い出してシーツに顔をうずめた。

「うぅ……っ」

 唇に触れると、昨夜の熱がまだ残っているような気がして一気に顔が熱くなる。
 嫉妬に駆られたレオンさんの口づけは、一度では終わらなかった。
 息をする隙間も与えられないほど何度も唇を塞がれ、私が涙目でギブアップを宣言するまで、たっぷりと「上書き」をされてしまったのだ。

 氷の狂犬だなんて誰が言ったんだろう。
 あんなの、独占欲の塊のような肉食獣だ。

 赤くなった頬を両手で挟んで落ち着かせていると、控えめなノックと共に、部屋の扉がすっと開いた。

「おはよう、ユフィ。よく眠れたか?」

「はいっ!」

 現れたのは、美しい翡翠の瞳を細めて微笑むレオンさんだった。
 朝から直視するには刺激が強すぎる美貌に、私は慌てて布団を首まで引き上げる。

「レ、レオンさん……! どうしてここに? というか、もしかしてずっと部屋の外にいたんですか?」

「俺の恋人であり、他国や貴族たちに狙われかねない『転生乙女』だぞ。護衛をつけるのは当然だろう」

「いくらなんでも王子様自ら、夜通し見張りをしなくても……!」

 平然と言ってのける彼に呆れつつも、私は急いで身支度を整えた。
 今日は朝一番で、セーリナ様とシベリウス様との『秘密のお茶会』が開かれることになっている。
 昨日の私の「前世」発言について、どう扱うかを話し合うためらしい。

 
 内宮の奥にある、限られた人間しか入れない私室。
 そこに集まったセーリナ様とシベリウス様は、向かいの席に座る私とレオンさんを見て、深い溜め息をついた。

「……で。ユフィが、初代国王を導いたとされる『転生乙女』の可能性があると」

「はい。昨夜、彼女の持つ異界の知識とデタラメな魔法技術は、間違いなく伝説に符合します」

 レオンさんが真剣な顔で頷く。
 私は居心地の悪さに身を縮ませながら、慌てて両手を振った。

「お、お待ちください! 伝説だなんて、そんな大層なものじゃありません! 私の前世はただの……下働きというか、机に向かって毎日大量の書類を計算して、整理し続けるだけの平凡な平民でしたから!」

「異界の計算技術……」

「国を揺るがす強力な兵器の作り方とか、新しい魔法の生み出し方とか、そういうすごい知識は一切ありません! 私はただ、自分の生活を無駄なく、平穏に過ごしたいだけなんです!」

 私が必死に弁明すると、セーリナ様は扇を口元に当てて、小さく吹き出した。

「ふふっ……おほほほっ! レオンティウスがあまりにも恐ろしい顔をして報告に来るものだから、どんな国の危機かと思えば」

「母上、笑い事ではありません。もし祖父……宰相派が彼女の力を知れば、確実に手駒として利用しようとします」

「わかっておりますよ。それにしても、ユフィ。貴女は本当に欲がないというか、現実的というか……ロマンの欠片もありませんね」

 セーリナ様は面白そうに目を細め、淹れたての紅茶を一口飲んだ。

「でも、その堅実さは嫌いではありません。野心にまみれた欲深い『伝説の乙女』に王宮をかき回されるよりは、よほど安心できます」

「うん、僕も同意見だ」

 難しい顔をしていたシベリウス様も、ほっとしたように微笑んだ。

「君の持つ不思議な力や前世の記憶については、僕たちだけの秘密にしておこう。レオン、君もそれでいいかい?」

「当然です。俺は最初から、ユフィを王宮の政争に巻き込むつもりはありません」

 レオンさんは私の隣で、まるで大切な宝物を守るように、私の肩を抱き寄せた。
 その力強い腕の温もりに、少しだけ胸がドキッとする。