親友だった第一王妃が病で亡くなった後。
宰相家はこれを好機とばかりに、第二王妃の息子であるレオンさんを次期国王に押し上げようと暴走を始めた。
もし彼女がまともな母親として振る舞い、有能さをアピールすれば、宰相家の勢力はさらに拡大し、親友の息子の命すら危うくなる。
「だからこそ、わたくしは、強欲で愚かな『毒婦』を演じることにしたのです。わたくしが嫌われ、この身に憎悪を集めれば、我が派閥の支持は落ちるでしょう。そして第一王子の地位は盤石になり、同時に、王位になんて興味のないわたくしの息子をも、ドロドロの政争から遠ざけることができますし」
「……なんて深い、愛情なんでしょうか」
私は胸が熱くなるのを感じた。
レオンさんは「母親は権力の亡者だ」と軽蔑していたけれど、全部、彼と第一王子を守るための計算だったってことだ。
「誰にも言えなくて、ずっと胃薬が手放せなかったんです。あーあ、でも話したらすっきりしました! お前、ユフィと言いましたね? 貴女のお茶、変わった入れ物に入っているけれど、とてもおいしかったわ。ピクニックみたいで。明日から、わたくし専属のお茶汲み係として付きなさい」
「えっ、窓拭きと草むしりはしなくていいんですか?」
「この宮の女官はあえて閉鎖的にしているのです。今はあまり情勢的によろしくない時期ですしね。ああでもしないと、後から後から有象無象の方が入り込んでしまいますし。初日に意地悪な事を言われたら、自分から出て行ってくれるでしょう? ユフィ、貴女はもう合格ですよ」
こうして、私は思わぬ形で、レオンさんのお母様と『秘密のお茶友』になってしまった。
「それとも、ユフィは何か目的があって、この王宮に来たのかしら?」
「あっ、はい! 実は――」
私が「貴方のご子息である第二王子レオンティウス様を探しに」と告げようとした、その時。
「セーリナ后。いらっしゃいますか」
東屋の入り口から、穏やかで聞き覚えのある声がした。
現れたのは、銀色の仮面を外した、どこか親戚のお兄ちゃんのような朴訥とした青年。
昨日、私に紹介状を書いてくれた『第一王子』様だった。
「シベリウス……珍しい事、何しにこちらへ」
王妃様の声が急に毒婦モードに切り替わる。
「いえ……私が紹介状を書いた女官が、手違いでこちらの宮に配属されたと聞きまして。彼女を引き取りに――ん? 君は」
第一王子様は、王妃様と向かい合って優雅に紅茶を飲んでいる私を見て、目を丸くした。
「……えっと。こんにちは?」
地獄のブラック職場で泣き崩れているはずの私が、ラスボスと和気藹々とお茶会をしている。
そのカオスな光景に、第一王子様が宇宙猫のような顔で固まってしまったのは、言うまでもない。


