元不良お嬢様〜小さな苺姫の物語〜

 私は多摩湖ちゃんをひき逃げした人を許せない気持ちがあっても、
 だれなのかわからないし、
 どこにいるのかわからないためにどうすることもできずにいた。

 羊飼さんに相談してみることにした。

「多摩湖ちゃんはひき逃げにあって、
足が動かなくなったみたいだけど、
犯人をやっつける方法ってある?」

「やめてください。
そんな物騒なことお考えにならないでください。
犯人をやっつけたところで、
障害が治るわけじゃないです。
それなら、
どうしたら足が治るとか、
犯人を逮捕できるとか、
足が動かなくても日常生活を送れるよう我々でどうサポートできるかとかの方がいいんじゃないですか?」

「私は羊飼さんみたいに賢くないから、
なんでもボコって解決する」

「…今日は夜空がきれいみたいなので、
一緒に星を見ませんか?」

「それ、いいね」

 私は提案に乗った。
 星を見ることは嫌いじゃないから。
 小さいころはよく羊飼さんと夜に星を見ていたけど、
 最近はそれをしてなかった気がする。

「では夜になるまで勉強なさってください」

「うん」

 この時ばかりは、素直になってみることにした。

 こうして夜になってから、
 家の前にある別荘で星と月を見た。

「今日は満月でもなくて、
三日月でもないね。
これは、何だろう?」

「本日は上弦の月みたいですね」

「上弦の月? なにそれ、戦ったら強そう」

「こんなバトル漫画みたいな発想なさらないでください」

「バトル漫画じゃなくて、苺漫画だもん」

「その苺漫画ってなんですか?」

「羊飼さんは確か、おひつじ座だっけ?」

「そうですよ。
苗字は小さいころ犬飼だったけど、
まさか両親が離婚して羊飼になるなんて、初めて一緒に星を見るころには思わなかったですね。
ところで、お嬢様は何座ですか?」

「1月5日生まれだから、苺座」

「苺座って、なんですか? そんな星座聞いたことないですよ」

「私は苺年で、
苺座で、
苺漫画の主人公で、
脳内苺畑だから」

「はいはい。
どうして、そんなに苺が好きなのですか?」

 苺が好きな理由…。
 私は頭の中でいくつか思い浮かべてみる。

「この学園にいちご先輩がいてね」

「はい」

「苺農家やっててね、
すごく尊敬してるの。
喧嘩も強くて、
元姫とか元総長だった気がするけど、
小学生の頃によく喧嘩の師匠だったんだけど」

「いちご先輩? たしか白薔薇学園中等部2年の……ですか?」

「うん。
そういえば、
羊飼さんのこと、
学園で見ないな。
高等部に在籍してるよね?」

「いませんよ、
白薔薇学園には。
話さなかったですか? 黒薔薇学園の高等部に在籍してることに」

「白薔薇学園を受験するって話があった気がするけど」

「第一志望には落ちました。ですが、第二志望の黒薔薇学園には受かって」

 星を見ながら、と思った。
 羊飼さんとこうしてじっくり話をしたことがなくて、
 お互いずっと一緒にいるわりには、
 ほとんど知らないことが多いことを実感させられた。

「羊飼さん、
私はいちご先輩とかに会いたいな。
いちご先輩は生徒会やってるし、
友達も多いからか、
なかなか時間がとれなくて」

「わたくしにも、
会いたい人がいますよ。弟とか」

「羊飼さんの双子の弟か。
私も最近会ってないな。
確か、苗字は犬飼のままだっけ?」

「はい、そうです。
両親は離婚してからかなりの不仲で、
養育費の話以外は面会を断るような関係なんです」

「私のモルモットパパと、
チビママに関しては仲良すぎて」

 最初は私は普通に
「パパ」
「ママ」
 って呼んでいたけれど、
 モルモットパパは太っていったし、
 チビママに関しては当時小学生の私に身長を抜かされるくらいちびだったから、
 そう呼ぶようになった。
 幼稚園の頃は背が高くてかっこいいママに見えたけれど、
 今考えればほかのママ友より低いことになぜ違和感を持たなかったのか不思議なくらいだった。

 私はチビママやモルモットパパを嫌いなわけじゃない。
 チビママは最初は一人でも私を産んで育てようとしてくれたし、
 モルモットパパは私と血がつながっていなくても、
 本当の父親かのようにふるまってくれている。
 そんな両親を嫌いになるわけがなかった。



 次の日、
 今日は休日。
 明日学校があるというのに、
 夜更かしして星なんて見ない。
 いくら私でも常識的なことはわかってるつもり。

 チビママもモルモットパパも休日なのにデートだし、
 羊飼さんに至っては実家に帰っているかもしれない。
 シングルマザーで家計が苦しいから、
 時給がいい私の執事をアルバイトでやっているという話だけど、
 それなら休日もいてほしかった。

 私は祖父母と同居している。
 お弁当とかも、
 おばあちゃんが作ってくれる。
 私の大好きなおやつも、
 おばあちゃんが作ってくれる。

 自分の部屋を見ると、
 本当に苺だらけだ。
 苺柄のカーペットに、
 シーツも苺柄、
 枕に関しては苺の形をしている。
 本棚にも苺に関係する本があった。
 いちご先輩のように苺農家をやりたい気持ちもあったけど、
 喧嘩に勝ち続けて裏社会で稼いでいきたい気持ちもあった。

 私の好きなものは喧嘩と苺。
 私のおばあちゃんは苺農家の娘で、
 つまり私の曽祖父が苺農家を経営していたというけれど、
 今となってはその農家はなくなっている。