約束は、千年の時を超えて

かるの嫁ぎ先となるはずだった豪族をもてなしてから、半月ほどが過ぎた頃であった。

突然、その豪族が何者かに命を奪われた。

その知らせは、瞬く間に宮中へ広まる。

当然、かるとの縁談も白紙となった。

本来ならば、悲しむべき出来事である。

それなのに――

私は、胸の奥で安堵している自分がいた。

その感情の理由が分からず、
私はただ戸惑うばかりだった。

知らせを聞いたかるのことが気に掛かり、
その夜、公務を終えた私は彼女の部屋を訪れた。

「かる、入るぞ」

静かに声を掛け、部屋へ足を踏み入れる。

かるは窓辺の椅子に腰掛け、
月明かりに照らされた庭を見つめていた。

私が入ってきたことにも気づいていない。

「知らせを聞いてから、ずっとあのご様子なのです……」

侍女が心配そうに頭を下げる。

「そうか。少し、二人で話をしたい」

「かしこまりました」

侍女は静かに一礼すると、部屋を後にした。

私はゆっくりとかるの隣へ歩み寄る。

「かる」

優しく名を呼ぶ。

かるは肩を震わせ、驚いたように振り返った。

その頬は涙で濡れていた。

「皇太子様……」

「今回のことは、残念であったな」

かるは小さくうなずく。

「はい……ですが、これも運命だったのでしょう」

そう答えながらも、
その瞳には深い悲しみが宿っていた。

私は胸が締めつけられる。

「……そんなに、その者を想っていたのだな」

言葉にした瞬間、
自分でも理由の分からない痛みが胸をよぎる。

しかし、かるは静かに首を横へ振った。

「違います」

「違う?」

「お相手の方は、とてもお優しく、立派なお方でした」

一度言葉を切る。

「ですが……」

かるは俯き、ぎゅっと袖を握り締めた。

「私は……安心してしまったのです」

「安心……?」

「私には、想い人がおりますから」

私は息をのんだ。

「……そうだったのか」

「はい」

かるは恥ずかしそうに頬を染め、小さく微笑む。

その表情は、とても幸せそうで。

同時に、どこか切なかった。

「かるの心を射止めたとは……幸運な男だな」

「……ええ」

嬉しそうに笑ったかと思えば、
すぐにその笑みは儚く消えていく。

「ならば、その者との婚姻を進めればよいではないか」

私の言葉に、かるはゆっくりと首を振った。

「それは……叶いません」

「なぜだ?」

「望んではならないお方なのです」

その言葉だけで、十分だった。

それ以上は聞いてはならない。

そう思った。

「……そうか」

私は静かに立ち上がる。

「夜も更けてきた。あまり無理はするな」

「はい。お気遣い、ありがとうございます」

部屋を出る間際、私は一度だけ振り返った。

月明かりの中で窓の外を見つめるかるの横顔は
、どこか儚く、美しかった。

胸の奥に残る、この違和感は何なのだろう。

私は、その答えをまだ知らなかった。