約束は、千年の時を超えて

宴の会場には、皇族や重臣だけでなく、
各地の有力豪族たちも集っていた。

惜しみなく酒が注がれ、色とりどりの料理が並ぶ。

誰もが晴れやかな衣をまとい、
今日という門出を祝っていた。

最も高い席には、父上と母上がお座りになっている。

そして会場の中央には、
美しく装ったかたの姿があった。

「かた」

私が声を掛けると、かたはゆっくりと振り返り、
静かに頭を下げた。

「皇太子様にお目にかかります」

「そのように堅苦しくする必要はない」

思わず苦笑する。

「何をおっしゃいますか」

かたは優しく微笑んだ。

「今日をもって、私はこの宮を離れる身なのですよ」

「何を言う」

私は静かに首を振る。

「たとえ嫁いだとしても、お主は変わらず我らの家族だ」

その言葉を聞いたかたの瞳が、大きく揺れる。

「……お兄様は、本当にお優しい方ですね」

涙が今にもこぼれそうになっている。

「泣くではない。せっかくの美しい装いが台無しになってしまうぞ」

すると、かたは小さく笑った。

「ご安心ください。私は化粧が崩れても美しいのですから」

「ふっ」

思わず笑みがこぼれる。

その時だった。

「姉上! 行かないで!」

幼い声とともに、小さな影がかたへ飛びついた。

「さか……」

末の妹ーー酒見皇女だった。

「さか。姉上は、お嫁に行かれるのですよ」

そう言って優しく抱き上げたのは、かるだった。

「でも……」

さかは目に涙を浮かべながら、かたへ手を伸ばす。

そこへ、ひこ、あな、たけ、はなが、
次々と集まってきた。

兄弟姉妹は皆、それぞれ寂しさを胸に抱えながらも、
かたの門出を祝おうとしていた。

「お兄様、私は幸せ者です。だってこんなにも温かな家族に囲まれて、育つことができたのですから」

その言葉に、誰も返事をすることができなかった。

父上も母上も、
少し離れた席から私たちを優しく見守っている。

気づけば、
私たちは幼い頃と変わらぬ笑顔で語り合っていた。

私は願った。

この穏やかな時間が、いつまでも続いてほしいと。

だが、その願いが叶うことはなかった。

この日は――

兄弟九人が、そろって笑い合った最後の日だった。