約束は、千年の時を超えて

「兄う……いえ、皇太子様。」

ひこは言い直し、静かに頭を下げた。

「兄上でよい、ひこ」

私は苦笑しながらそう告げる。

「ですが、皇太子様はいずれ帝となられるお方です。これまでのようにお呼びするわけにはまいりません」

「我は、お主たち兄弟とは昔のままでいたいのだ」

ひこは一瞬だけ寂しそうな表情を浮かべたが、
すぐに微笑んだ。

「何をおっしゃいますか。今日は姉上の晴れの日なのですよ」

「ああ……そうであったな」

長女・名形大娘皇女は、国のため、有力豪族へ嫁ぐこととなった。

それは皇族として生まれた者の務め。

この頃から、私たち兄弟姉妹は、それぞれが政治の一部として生きる道を歩み始めていた。

そして皇太子である私は、人を守るだけではなく、
ときに人を動かし、国を治める立場にならねばならない。

「兄弟とは……何なのであろうな」

思わず漏れた独り言に、ひこが首を傾げる。

「皇太子様?」

「いや、何でもない」

私は静かに首を振った。

「さあ、今日くらいは姉上を笑顔で送り出して差し上げましょう」

「ああ。そのとおりだな」

私は小さくうなずき、
皆の待つ宴の間へと歩き出した。