約束は、千年の時を超えて

私があっさりと罪を認めたことで、
皇位継承を巡る争いは起こらなかった。

誰一人として血を流すこともなく、
すべては幕を閉じた。

もっとも、
それは私一人が罪を背負った結果にすぎない。

それでも構わなかった。

母上や、あなを除く弟妹たちは、
最後まで私の無実を信じてくれていた。

それだけで十分だった。

私は、家族に恵まれていたのだ。

私に下された処分は、伊予国への流刑。

無事にたどり着ける保証はない。

たどり着いたとしても、その先に待つ暮らしは決して楽なものではないだろう。

それでも、私は受け入れる覚悟を決めていた。

流刑の日。

私は馬車に据え付けられた牢へ入れられ、
都を引き回された。

道の両脇には、多くの民が集まっている。

「罪人だ!」

「皇族の恥!」

罵声が飛び交い、石や泥、
ゴミが次々と投げつけられた。

それでも私は顔を伏せなかった。

最後の最後まで、
皇族としての誇りだけは失いたくなかったからだ。

やがて馬車は、都の外れにある刑場へたどり着く。

目の前には、
小さな木の船が一艘、静かに波に揺れていた。

――この船で、一人伊予へ向かうのか。

静かに息を吐く。

「兄上」

聞き覚えのある声に振り返る。

そこには、あなが立っていた。

「本当に残念です」

その声には、
かつての優しさは微塵も残っていなかった。

「国のことは、ご安心ください。あとは私が守ります」

そう言って、あなは薄く笑う。

私は何も言わなかった。

目の前にいるのは、幼い頃、共に笑い合った弟ではなかった。

「あな……」

ただ、その名を呼ぶことしかできない。

「あとは頼んだぞ」

それだけを告げると、
あなは一瞬だけ表情を曇らせた。

だが、すぐに顔を背ける。

「……刑を執行しろ」

兵たちは静かに私の縄を解き、船へと促した。

私は抵抗することなく、小さな船へ乗り込む。

岸には母上や弟妹たちの姿があった。

皆、涙を流しながら俯いている。

その中に、かるの姿だけは見当たらなかった。

会いに来られなかったのか。

それとも――私のこの姿を見たくなかったのか。

答えは分からない。

船は静かに岸を離れていく。

私は振り返らなかった。

生まれ育った都も。

愛した宮も。

愛する家族も。

胸の中へしまって、前だけを見つめた。

波の音だけが静かに響く。

「……かる」

気づけば、その名が唇からこぼれていた。

愛しい人の名。

その瞬間、堪えていた涙が溢れそうになる。

「……っ」

私は強く拳を握り締める。

泣くものか。

最後まで、胸を張って生きよう。

それが、木梨軽皇子としての最後の誇りなのだから。