約束は、千年の時を超えて

夜更け。

牢の小さな窓から星空を眺めていると、
静かな足音が近づいてきた。

「誰だ」

私は警戒し、鉄格子から一歩身を引く。

月明かりの中に姿を現したのは、かるだった。

「かる!」

思わず声を潜める。

「ここへ来てはならぬ。見つかれば、お主まで罰せられる」

しかし、かるは首を横に振り、
一歩、また一歩と鉄格子へ近づいてきた。

月明かりに照らされたその顔は、
悲しみに満ちていた。

「……すまない」

私は静かに頭を下げる。

「お主まで巻き込んでしまった」

かるは何も答えない。

ただ、私を見つめ続けている。

怒っているのだろうか。

そう思いかけた、その時だった。

大粒の涙が、かるの頬を伝って零れ落ちた。

一粒、また一粒と、止めどなく流れていく。

「なぜ泣く」

私は鉄格子へ歩み寄る。

「お主は、我を憎んでいるのではなかったのか」

かるはゆっくりとその場へ膝をついた。

「かる」

思わず鉄格子へ手を伸ばす。

かるは震える声で、小さく呟いた。

「……私のせいです」

「違う」

「私が……兄上様をお慕いしてしまったばかりに……」

その言葉を聞いた瞬間、胸の奥で何かがほどけた。

そうだったのか。

胸が熱くなった理由も。

かるの笑顔を見たいと願った理由も。

誰よりもかるを守りたいと思った理由も。

すべて、この想いだったのだ。

「違うぞ、かる」

私は静かに首を振る。

「お主だけではない」

かるは涙で濡れた瞳を上げる。

「え……」

「我も、お主を想っていた。」

その一言に、かるは息をのんだ。

「兄上様……」

「我らは、互いに同じ想いを抱いていたのだな」

私は苦く笑う。

「噂は間違っていた。だが……互いを想っていたという、その一点だけは真実だったのだな」

かるは堪えていた涙を再び溢れさせた。

「なぜ泣く」
「だって……兄上様は……」
「もうよい」

私は穏やかに微笑む。

「私が罪を受け入れれば、それで済む」

「これ以上、誰の血も流さずに済むのなら、それでよい」
「ですが、それでは兄上様が……!」

「私は構わぬ」

私は静かに頷く。

「だから、お主は生きよ私がいなくなっても、母上や弟妹たちを支えてやってくれ。」

かるは何度も首を横に振った。

「……嫌です」

「かる」

「兄上様のいない世界でなど、生きてはいけません」

その言葉に、私は思わず苦笑する。

「子どものようなことを申すな」

「兄上様のばか……」

かるは涙を流しながら俯いた。

私は鉄格子越しにそっと手を伸ばす。

触れることはできない。

それでも、届くような気がした。

「私は、お主の幸せだけを願っている」

かるは何も答えられず、ただ涙を流し続けていた。

やがて遠くから見回りの足音が聞こえてくる。

「もう戻れ。見つかる。」

かるは涙を拭い、小さくうなずいた。

「……はい」

最後に一度だけ私を見つめると、
静かに牢を後にした。

私はその後ろ姿が見えなくなるまで、
ただ立ち尽くしていた。

後に知ることとなる。

私が捕らえられて二日後、かるは離宮へ移され、
厳しい監視下に置かれたことを。