「皇太子様! 大変です!」
公務室の扉が勢いよく開かれる。
飛び込んできたのは、たけだった。
幼かったたけも今では立派に成長し、ひこと共に私の公務を支えてくれている。
「どうした、たけ」
たけは肩で息をしながら、言葉を発しようとする。
「そ、それが……っ」
「落ち着け」
ひこがたけの背を優しくさする。
たけは深く息を吸うと、私を真っ直ぐ見つめた。
「都中に張り紙が出されました」
「張り紙だと?」
「皇太子様とかる姉様が、夜ごと密会を重ね、男女の仲となっている……そのような内容です」
「何だと!」
私は思わず立ち上がった。
確かに、私は夜ごと庭でかると語り合っていた。
だが、それ以上のことなど何一つしていない。
何より、かるは大丈夫なのだろうか。
その身に危険が及んではいないだろうか。
「さらに……」
たけは悔しそうに唇を噛む。
「重臣や豪族だけでなく、民の間でも、その噂を信じる者が増え始めています」
「そんな馬鹿な……」
ひこは机を強く叩いた。
「誰がこんな噂を流した!」
その時だった。
廊下から大勢の足音が響く。
部屋の扉が開かれ、
武装した兵たちが一斉になだれ込んできた。
ひことたけは即座に剣を抜き、私の前へ立つ。
「何者だ!」
「皇太子様の御前だ! 無礼であろう!」
二人の鋭い声が響く。
すると兵たちの後ろから、一人の男が姿を現した。
「あまり騒がぬことです」
その声に、私は息をのむ。
「あな……」
弟のあなだった。
「あな兄……」
たけも信じられないという表情でを見つめる。
「その者は、もはや皇太子ではありません」
あなは冷たい眼差しで私を見据えた。
「実の妹である大軽娘皇女と密会を重ね、不義を働いた罪人です」
「ふざけるな!」
ひこが一歩前へ出る。
「皇太子様が、そのようなことをなさるはずがない!」
「ひこ」
私は静かに肩へ手を置いた。
「剣を納めよ」
「ですが……!」
「よい」
苦しそうな表情を浮かべながらも、
ひことたけは剣を鞘へ収めた。
私は一歩前へ出る。
「かると会っていたことは認める」
「皇太子様!」
「だが、それ以上の関係など一切ない」
「口では何とでも申せます」
あなは冷笑した。
「二人が人目を忍んで契りを交わしていたと証言する者まで現れております」
「そのようなことは断じてない」
私はあなの目を真っ直ぐ見つめる。
「私は皇太子として、決して恥じるような行いはしておらぬ」
「……しかし」
あなの声は冷たかった。
「朝廷は、あなたを皇太子に相応しくないと判断しました」
その一言で、公務室の空気が凍りつく。
「本日をもって、皇太子・木梨軽皇子を都より追放いたします」
兵たちが私を取り囲む。
縄が両腕へ掛けられた。
「離せ!」
ひこが再び剣へ手を掛ける。
「皇太子様を連れて行かせるものか!」
「ひこ!」
私は強く言い放つ。
「剣を抜くな」
「ですが!」
「ここで争えば、流れるのは我らの血だけでは済まぬ」
ひこは震える拳を握り締め、唇を噛む。
たけも悔しさに涙を浮かべていた。
私は抵抗することなく、兵たちに身を委ねた。
私一人が捕らえられることで、この宮に争いが起きないのであれば、それでよい。
牢へ入れられた私は、
鉄格子の向こうに広がる夜空を見上げる。
あの日、かると並んで眺めた星空と同じ空だった。
私は静かに目を閉じる。
これから、私の運命はどこへ向かうのだろうか。
公務室の扉が勢いよく開かれる。
飛び込んできたのは、たけだった。
幼かったたけも今では立派に成長し、ひこと共に私の公務を支えてくれている。
「どうした、たけ」
たけは肩で息をしながら、言葉を発しようとする。
「そ、それが……っ」
「落ち着け」
ひこがたけの背を優しくさする。
たけは深く息を吸うと、私を真っ直ぐ見つめた。
「都中に張り紙が出されました」
「張り紙だと?」
「皇太子様とかる姉様が、夜ごと密会を重ね、男女の仲となっている……そのような内容です」
「何だと!」
私は思わず立ち上がった。
確かに、私は夜ごと庭でかると語り合っていた。
だが、それ以上のことなど何一つしていない。
何より、かるは大丈夫なのだろうか。
その身に危険が及んではいないだろうか。
「さらに……」
たけは悔しそうに唇を噛む。
「重臣や豪族だけでなく、民の間でも、その噂を信じる者が増え始めています」
「そんな馬鹿な……」
ひこは机を強く叩いた。
「誰がこんな噂を流した!」
その時だった。
廊下から大勢の足音が響く。
部屋の扉が開かれ、
武装した兵たちが一斉になだれ込んできた。
ひことたけは即座に剣を抜き、私の前へ立つ。
「何者だ!」
「皇太子様の御前だ! 無礼であろう!」
二人の鋭い声が響く。
すると兵たちの後ろから、一人の男が姿を現した。
「あまり騒がぬことです」
その声に、私は息をのむ。
「あな……」
弟のあなだった。
「あな兄……」
たけも信じられないという表情でを見つめる。
「その者は、もはや皇太子ではありません」
あなは冷たい眼差しで私を見据えた。
「実の妹である大軽娘皇女と密会を重ね、不義を働いた罪人です」
「ふざけるな!」
ひこが一歩前へ出る。
「皇太子様が、そのようなことをなさるはずがない!」
「ひこ」
私は静かに肩へ手を置いた。
「剣を納めよ」
「ですが……!」
「よい」
苦しそうな表情を浮かべながらも、
ひことたけは剣を鞘へ収めた。
私は一歩前へ出る。
「かると会っていたことは認める」
「皇太子様!」
「だが、それ以上の関係など一切ない」
「口では何とでも申せます」
あなは冷笑した。
「二人が人目を忍んで契りを交わしていたと証言する者まで現れております」
「そのようなことは断じてない」
私はあなの目を真っ直ぐ見つめる。
「私は皇太子として、決して恥じるような行いはしておらぬ」
「……しかし」
あなの声は冷たかった。
「朝廷は、あなたを皇太子に相応しくないと判断しました」
その一言で、公務室の空気が凍りつく。
「本日をもって、皇太子・木梨軽皇子を都より追放いたします」
兵たちが私を取り囲む。
縄が両腕へ掛けられた。
「離せ!」
ひこが再び剣へ手を掛ける。
「皇太子様を連れて行かせるものか!」
「ひこ!」
私は強く言い放つ。
「剣を抜くな」
「ですが!」
「ここで争えば、流れるのは我らの血だけでは済まぬ」
ひこは震える拳を握り締め、唇を噛む。
たけも悔しさに涙を浮かべていた。
私は抵抗することなく、兵たちに身を委ねた。
私一人が捕らえられることで、この宮に争いが起きないのであれば、それでよい。
牢へ入れられた私は、
鉄格子の向こうに広がる夜空を見上げる。
あの日、かると並んで眺めた星空と同じ空だった。
私は静かに目を閉じる。
これから、私の運命はどこへ向かうのだろうか。


