ルーチェに恋をして



平日の十四時開演にも関わらず、コンサートは満員御礼。
会場は奏多の演奏を聴きにきた人たちで溢れていた。

「凄い人だね……」

チャコールグレーのスーツに緑のネクタイを着用した紡の顔が驚き、困るように苦く笑う。
 
「………………。」

文乃に至っては顔色を青く染めながら無言。
その姿に紡も「大丈夫?」と声をかけるが黙ったまま、小刻みに頭を縦に振ることしかできない。

太陽と出かけていて本当に良かった。
本番ぶっつけで来ていたら卒倒していたかもしれない。

「あー……どうしようか。」

関係者席なので裏から入ることもできるらしいが二人でわからず立ち尽くす。
奏多に聞くことを忘れていたと後悔するがどうしようもない。

「仕方ない、この人混みに入って——」


 ——パシッ と。


スタッフジャンパーを羽織った男が文乃の腕を掴み引っ張る。

驚いて引かれるがまま足を動かすと「おい!?」と叫ぶ紡が男を追いかけ、手を伸ばす。
が、途中で何かに気づき動きを止めた。

「…………。」

紡は文乃の後ろに続いて男の指示に従った。
関係者の扉を抜け、控え室まで来るともうそれが誰なのかは明白。

「奏多!」

振り返り、顔を見せたのはコンサートの主役ピアニスト。
イタズラに笑う姿はスタッフジャンパーの下に着ていたドレスシャツのお陰でいつもより大人に見える。

「来たな」

「誰かと思ったよ」というと「ああでもしねぇと迎えにいけねぇから」と謝られ、それもそうかと納得した。
紡も何か言いたげだったが、奏多のジャケットを持ってきたスタッフと顔見知りだったのか話が盛り上がって「少し行ってくる」と言い残し控え室を出て行く。