ルーチェに恋をして

初めてのセレクトショップ。
先ほどまで見ていたショップに比べれば今回のショップは高校生令和ギャル姿でも、冷めた目で見つめるようなスタッフはいないのか、入って早々二人でゴニョゴニョとしていても不思議そうな顔でこちらを見つめるだけ。

そうだとしても、その店員に自分から話しかけるのは文乃にとってはかなりの難題だった。

「む、無理ですよ……!」
「大丈夫。俺を信じて。」

 美少女の顔なのにイケメンにしか見えない太陽の姿は文乃の勇気をそっと押す。

「……っ」

店員がこちらを見つめる視線が怖い。
絶対、変だと思われている。
何あの子って言われて——


「お客様、気になるものがございましたか?」


店員の女性が文乃に声をかけてきた。
彼女は文乃の言葉を引き出すように、物腰柔らかくゆっくりと話す。

「もし気になるものがございましたらご試着などいかがですか?」

 
 穏やかな空気、優しい笑顔。

 文乃が心配していたことなど何も起きていなかった。

店員の心遣いに緊張しながらも、文乃は初めて口を開く。


「あ……あの……マネキンの服が、欲しくて……」
「ご試着はされますか?」
「え、えっと……はい」
「かしこまりました。少々お待ちください。」

丁寧に一度お辞儀すると店員はショーウィンドウのマネキンから服を取りに向かった。
緊張した。
……でも引きこもって以来、初めて。

初めて、まともに外の人と話すことができた。


「っ……」


他の人から見たらなんてことない会話でも、文乃にとっては大きな一歩だった。
泣いてはいけないとわかっているのに、目頭は熱くなる。
耐えていると誰かが文乃の頭を優しく撫でた。


「頑張ったね」


太陽の優しい声と柔らかい笑顔に胸の奥から熱いものが湧き上がる。
自然と服の裾を握って溢れそうな涙を堪えた。

店員は服を用意し終えると文乃を試着室へと案内する。
ワンピースとジャケットは文乃のサイズぴったりだった。
どちらも最後の一着だという二点を文乃はとても気に入り、買うことを決める。

脱ぐために試着室へ戻り、着替えを終えて会計に向かおうとすると「お会計は既にいただいております。」と微笑まれた。

ワンピースとジャケットは決して高校生がぽっと買えるような値段ではなかった。
一応、これでも人気小説家の文乃にとって全然買えないものではなかったが金銭感覚が一般的な文乃にとっては大きな買い物になると心構えをしていたのだ。
店員からショップ袋に入れられたワンピースとジャケットを受け取り、見送られながらセレクトショップを後にする。
 
店外では太陽が素知らぬ顔で文乃を待っていた。

「太陽っ……!これ……」

渡された袋を指差しながら太陽に支払いのことを聞こうとすると遮るように太陽は言葉を被せる。

「プレゼント。喜んでくれた?」

感謝の言葉以外、許されそうにない彼の空気に文乃は言いかけた言葉を喉の奥に戻し、新しく言葉を出した。

「……ありがとうっ。」
「うん。文乃ちゃん頑張ったからね。」

太陽は嬉しそうにまた文乃の頭を優しく撫で、手を繋ぐ。
温かい気持ちに包まれて、文乃は心から感謝した。

「そろそろ帰ろうか」
「……はい!」


仲の良さそうな女の子同士に見える二人は手をゆらゆらと揺らし、笑い合いながらメイクスタジオへと戻っていった。