ルーチェに恋をして

「特に特別なのは文乃ちゃん、キミだよ。」

遠くを見つめていた瞳が愛おしそうにこちらを見つめている。
……ずっと疑問だった。

「どうして、私なんですか?」
 
聞かずにはいられなかった。
こんなに輝き、誰からも愛される素敵な人が。

私を好きだと言ってくれるのか。

「初めて会った時、せんぱ……太陽は私のことをルーチェと言ってくれました……別に私は特別可愛いわけでも、愛嬌(あいきょう)があるわけでもないのに」

「……なんでだと思う?」

文乃の質問に太陽は質問で返す。
その聞き方はまるで何か理由があるように聞こえて、文乃を戸惑わせる。

「文乃ちゃんにとってはなんてことのない、記憶にも残っていないくらい当たり前のことだったのかもしれないね。……でも、俺にとってはキミは——救いだったんだ」
 
 バックミラーから見られないように。
 
太陽はそっと文乃を窓の端へと追い詰める。
至近距離の太陽の整った顔に肩を(ちぢ)めながらもじっとその綺麗な瞳から目が離せなかった。
互いの額がくっついてしまうほどの距離に、文乃の心臓もドキドキと鼓動し始める。
いつもの輝く笑顔ではなく、真剣な太陽の瞳がどうして自分に向けられているのかわからなくて目が泳いでしまう。
 
その様子に太陽は意地悪するように口角を上げてもっと体を近づけた。


「ねぇ、文乃ちゃん。奏多とキスしたでしょ?」


耳元でそっと囁かれた言葉に、なんで知ってるんですか!?と叫びそうになると「しーっ」と一本指で優しく止められる。
文乃の反応に「奏多っちからね?文乃はやらねぇって宣戦布告されちゃったよ」と微笑む太陽。
さっきまで微笑んでいたはずの彼の表情は次の(まばた)きで嫉妬へと変わり、今度は耳元ではなく、文乃の瞳を見つめながら囁いた。

 
「……俺、初めて本気で嫌だと思ったよ」

男の顔で自分を見つめる太陽に瞳を揺らし、心臓は勝手に鼓動を強める。
息がかかりそうなほど近く、
動いたら階段の時のようにキスしてしまいそうな距離。

太陽は文乃を見つめている。
 
「文乃ちゃん」

名前を呼ばれて泳がせていた目をゆっくりと彼へと向ける。
文乃に願う様に。
太陽は続けて言った。

 
「俺も事故じゃない本気のキス」


「してもいい?」


自分の頬に手が添えられ、言葉の意味を考えるより先に——。

 
車の走行音と大人たちの小声の会話だけが

車内に響いていた。