ルーチェに恋をして

 *

「じゃあ買い物にいこーう!」

「そ、外は!外はまだ無理ですぅぅぅぅぅぅ」

 文乃を外へ連れ出そうと引っ張る太陽に対して必死の抵抗で大階段の手すりにしがみつく。
 てっきりネットショッピングで済ませられると思っていたのに太陽は「外で実際に試着した方がいいよ!」と文乃を太陽(本物)の下に出そうとする。

 ステラ内は慣れた文乃だったが、その領域を出てしまえば以前の自分と変わりない。

「うう……外は……」

「でもコンサート行くなら外に出ないといけないよ?」


 ……。

 そう。
 結局、奏多のコンサートに行くためにはここを出なければいけない。

 このおとぎ話のような空間は自分にとって唯一の安心できる空間。

 だからとここに居続けるわけにもいかない。
 いつかここを出なければならないのだから。
 訪れる未来のためにも、奏多のコンサートのためにも

 外へ出ることに慣れなければならないのは事実。


「一人で出るより、二人で出た方がまだ安心できるんじゃない?」

 
 ぐうの音も出ないほど。
 正論だった。

「うう……」

 これ以上、ゴネたところで太陽に迷惑をかけるだけ。
 彼の正論に太刀打ちできる言い訳も思いつかない。
 何より、自分を想って外へ連れ出そうとしてくれているのに。

「大丈夫だよ」

 安心させるように、太陽は優しい声で文乃に話しかける。

「俺は芸能人って事情から常に車の使用を認められてる。一般生徒の中を堂々と歩くと騒ぎになっちゃうからね。ひっそりと裏門を使って出よう。車も呼んであるよ」

 
 なんと……
 

 文乃は太陽を拝みたくなった。

 
 神様。
 神様だ……っ!

 
 太陽の仕事の速さと文乃のことも考えた行動に涙が出てしまいそうだった。
 そこまで考えてくれていたんですねと心の中で滝のような涙を流す。
 正面ではなく裏なら人目を気にしなくても良さそうだ。
 太陽の知名度を考えたらきっと行く店だって会員制のような人がいない場所だろう。

「太陽せ……じゃなくて、太陽の優しさに甘えて私、頑張ります!」

「うん!応援するよ!」


 入寮して六ヶ月とちょっと。
 文乃は初めて自分の意思を持って外の世界へと踏み出した。