ルーチェに恋をして

太陽先輩から渡されたメモには住所が書かれていた。

多分、それは兄の居る……場所なのだと思う。

太陽先輩は少し苦手だと思った。
あの人と話してると、自分の中を全て吐いてしまいそうになる。
この前だって、兄の話なんかするつもりもなかったのに。
気づいたら先輩に突っかかってしまっていた。

「ここ……だよな?」

渡された住所には小さな商店があった。

軒先に並べられた和装の小物たちは値段こそお手頃だが、物自体は割としっかりしたいいもので。
「へぇ……」と感嘆の言葉が出てしまう。

それにしても、『世界と和服を繋ぐ店』なんてなんとも安直で何事にもまっすぐな兄が考えそうな名前だ。
……店を開いたとは知らなかった。
それもこれも自分自身が兄と話すことを諦めていたから。
……どういう顔をして兄さんに声を掛ければ——


「紡?」

悩んでいた矢先、店の中ではなく少し離れた道から声をかけられる。
自分のよく知った声に振り返ることをためらいながらもゆっくりとその人に視線を向きあう。

「紡……!紡だよな!!」

兄は興奮した様子で喜びながら抱きついてきた。
変わらない兄にホッとしながらも、さっきまでいた兄の場所に立ったままこちらを優しく見つめている女性に複雑な感情が押し寄せる。

「紡、久しぶりだなぁ!俺が家を出るって言った日から一度も顔を見られなくて……いや、そんなことはいい。お前よくここがわかったな!母さんか父さんに聞いたのか?」
「……ステラの先輩が教えてくれた」

自分の入り乱れる感情に戸惑いながらも、兄の言葉に返事を返していく。
紡の返事に「先輩?……ああ!太陽か!」と納得した様子の兄は少し照れくさそうに首筋をかいた。

「いやー。太陽には本当に頭が上がらん。アイツがハリウッドの衣装クルーにも紹介してくれたおかげでうちの着物は大人気になってな!」
「……着物、まだ仕立ててるの?」

兄の言葉に驚くように目を開きながら返答を待つ。
「当たり前だろ!」とあっけらかんと話す兄に紡は意表(いひょう)を突かれた気分だった。

「俺の人生は着物と生きてきたようなものだぞ?今更、生き方を変えられないさ」
「……でも、ルーチェを見つけたからって実家を継ぐこともやめて、家も出て。……兄さんは着物より恋愛を選んだってことだろ!?」

否定して欲しくて。
思わず兄へ向けた言葉に力が入る。
言ってしまったことに気づいて焦って顔を上げるが、弟の本音に兄は少し眉を下げながらも

笑っていた。