ルーチェに恋をして

目の前の状況を処理するように、ゆっくりと唇を離す。

「ご、ごめん……!」

さすがの太陽も気まずそうに目を泳がせて言葉を探している。
気づいて「大丈夫ですよ」と自分の唇を押さえながら太陽を気遣うが心の中は混乱していた。


 こ、これってキスってやつだよね……?!
 
戸惑いながらも、小説家として経験したことを活かさなければという謎のプロ根性で
知らなかった行為を感情より先に文章として頭に書き出す。
今ままでわからなかったものを理解するように、その出来事を記憶に刻み込んだ。

「テメェ……ふざけんなよ」

隣から溢れ出る威圧感に視線を向けると奏多が太陽に向かってキレていた。
目の前で起きたハプニングに怒ってくれているのだろうが、当の本人はそれを小説の参考資料として頭の中に記憶しようとしている。

「か、奏多……?先輩は私が落ちないように助けてくれただけで……ぐ、偶然唇も当たっちゃっただけだから……」
「だから、キスしても仕方ないって?」

奏多の言葉は針のように刺々しい。
まるで初めて出会った時のようだった。

奏多は怒っている。
なんでそんなに怒っているのか、文乃にはわからなかった。

困惑して言葉を探していると奏多は「チッ」と舌打ちをして階段を上る。
すれ違いに太陽を睨み、そのまま自分の部屋へと戻ってしまった。
どうするべきだったのか、文乃は視線を戸惑わせる。

「本当に……ごめんね」

心の底から申し訳なさそうに謝る太陽の姿に文乃は無理やり顔を明るくして、
「あ、その……助けてくださり、ありがとうございました」と伝えると太陽の表情も少しは和らいだ。

……奏多にはあとでご飯を持って話に行こう。

文乃は紡・太陽・蓮と一緒に食堂で夕食を食べたのだった。