ルーチェに恋をして


「執事ってことは……あ、安西さんは……」
 
「文乃様、私に敬称は不要でございます。どうぞ安西とお呼びください。」
 
「あ……安西……は常に私のそばにいるんですか……?」
 
「ご希望であれば遠くからサポートすることも可能でございます。」
 
「ありがとうございます……」

 ずっとそばにいられたら執筆、ネタ探しどころか私生活もままならない。
 安西の言葉に安心して文乃はほっと胸を撫で下ろす。

 
「それでは、まずはステラ寮にご案内いたします。」

 
 ネット画像でしか見たことのないような高級車がドアを開けて文乃を待っていた。
 こんな車乗ったことない文乃は緊張で手汗が止まらない。
 
「え、あ、入学式は……」
 
「ステラに関しては入学式は免除となっております。参加なさりたいようでしたらご案内も可能ですが、いかがなさいますか?」
 
 安西は運転していても完璧に文乃に答えてくれる。
 入学式も自由参加とは、なんとも自由な校風。
 才能特化クラスというのはそれだけ特別なのか。
 
「いや……参加しなくていいならしたくないです」
 
「かしこまりました。」

 安西は確認を終えると運転に意識を集中させていた。
 目の前に見えていたマンション街を次々と通り過ぎ、寮があるように見える方向から遠のくようすに文乃は口を開く。
 
「あの……寮ってあっちなんじゃ……?」
 
「あちらは一般生徒向けの寮エリアになります。」
 
「え、じゃあ私は……」
 
「文乃様に関してましてはステラ専用の寮をご用意しておりますのでそちらをご利用下さい。思う存分、才能を伸ばすことができるようにという、初代校長からのしきたりでございます。」
 
「ひぇ……」

 何がなんだか、もう今まで生きてきた環境と違いすぎる。
 急に財閥のお嬢様にでもなった気分だった。
 
 恐れ多くて、自然と肩が縮こまっていく。
 
 気づいた時には停留所から見えた緑の壁の前に車が停まり、ドアが開く。
 
 
「こちらでございます。」

 マンション街の一番奥。
 境にある緑豊かな自然の壁。
 その間にはまるで貴族が暮らすような屋敷の門があった。
 
 門の向こうに広がるのは石畳の遊歩道(ゆうほどう)に華やかな庭園。
 鮮やかな青い屋根に金の装飾をあしらった洋館と、斜め前には白い石造りの西洋風な建物も見える。

 日常から区切られたようなお伽話の空間。
 
 引きこもりだった文乃には眩しすぎる輝きに、軽く意識と飛ばしかけたのだった。