ルーチェに恋をして

結局、紡の許可を得て彼の部屋で仕事をさせてもらう。
部屋の隅に居られると落ち着かないからと部屋の椅子と机に案内され、そこで執筆作業をさせてもらっていた。
よく考えてみると、紡の部屋に入ったのは初めてだったと気づく。

広い部屋の角には畳の和室エリアがあってその中には低い机に着物のようなものが見えた。
作業場のらしきその場所にはあまり近づかないようにと言われたのでベッド横の机からひっそりと紡の姿を見つめる。

制服のジャケットを脱いだシャツ姿、捲り上げた袖から見える腕は紡の和やかな雰囲気とは違い男らしい腕だった。
動くたびに揺れる前髪が真剣に着物を見つめる彼の視界を少しだけ邪魔をして。

 見える姿は一枚絵のように 美しかった。

その光景を残しておきたくて。

執筆を止めてメモ帳に文字を書き込む。
夢中になって紡の空気、姿、表情……筆が動く限り書き出した。

「これ、僕のこと?」

不意に頭上からかけられた声に驚き、思い切り頭を上げる。
「ガッ?!」という呻き声にゴンっ!と響く衝突音。
文乃の後頭部には衝撃が走り、痛む。

「ご、ごめん……」
「いや……僕が勝手に覗いたから……ごめん」

そう言いつつも紡は自身の額辺りを抑え、痛みに耐えていた。
文乃が勢いよく頭を上げたせいで紡の額に文乃の後頭部がヒット。
メガネを外していたことだけは救いだった。
かけていたら確実に割れて怪我している。

互いに痛みが治まるとやっと会話を再開した。
紡は文乃のメモを勝手に見たことを謝りながらも、その内容について再度尋ねる。

「これ、僕だよね?」

質問に濁すこともなく「うん」と素直に答える。
目の前で書いていたのだから濁したところでバレるに決まっている、なら最初から素直に答えた方がいいのだ。
別に悪いことをしているわけではないのだから。

 ……肖像権どうの言われたらどうしよう。

そこまでは考えきれていなかった。

「ふーん」と言いながら文乃の書いたメモを目で読んでいく紡。

まじまじと自分の書いたメモが読まれる様子に恥ずかしくなってきて体がどんどん小さく縮こまる。
奏多に見られた時とは違う、例えるなら走り書きの文章を確認されてるような……変なこと書いていないだろうかという不安が迫ってくる感じだ。

紡は読み終えたのか片手で口元を軽く押さえ、少し上に顔を向けて「僕ってこんな風に見えてるのか……」と小声で呟いていた。
その呟きに「つむくんの空気も姿も、全部かっこいいって思ったよ」と返すと紡はそのまま黙り込んでしまい、なんか変なこと言ったかな……と少し焦る。

でもチラリと見えた横顔はただ恥ずかしがっているだけに見えて。
 
文乃はホッと胸を撫で下ろした。