ルーチェに恋をして

あわあわあわあわ と。

文乃の体は自分に向けられたことのない部類の言葉に震えていた。
奏多に握られていた左手に強い圧迫を感じて顔を向けると、彼は鋭い視線で強く太陽先輩を睨み威嚇(いかく)するように歯を食いしばっている。

露骨(ろこつ)な怒りに文乃は思わず体が怯えるように後ろに引いた。

文乃の怯える姿に気づいたのか奏多は焦ったように顔を崩し、ずっと握っていた左手を離して視線を逃すように反対を向く。
なんであんなに怒っていたのかわからず、気まずい空気が間に流れる。

二人の空気を割るように、明るい太陽が文乃の隣に再度座って今度は両手を握った。

「ほら、小日向先輩が言ってただろ?ルーチェを見つけたらビビって心臓が高鳴るって。文乃ちゃんを見て()()()()俺のルーチェはこの子だって思ったんだ!」

小日向という苗字が何か引っかかった。

聞いたことあるような……それに……『やっぱり』?
疑問を聞く間もなく太陽の会話は進んでいく。

「本当の恋はこんなにドキドキするものなんだね!」
「はわっ?!」

グッと顔を近づけてくる太陽に驚いて肩が跳ねる。
体を逸らしても、両手が握られている文乃は先輩から逃げることはできなかった。
 
ど、どうしたら?!
 
焦る文乃の視界が揺らされたのは、


 一瞬だった。
 
 
太陽先輩と文乃の手は強制的に離され、横から体を抱きしめられて。


「っ文乃は——俺のだ!」


奏多の心臓の鼓動が背中から伝わってくる。

それは激しく何回も鼓動していて、自分の心臓まで一緒に動いてるような気さえした。
自分を抱きしめる両腕が、奏多の顔がとても近くて。

奏多の爽やかなシャンプーの香りが彼の近さをより文乃に自覚させた。

突然の行動に、太陽は目を丸くして何度も(まばた)く。
流れるように奏多の顔と文乃の顔を確認するとなんの含みのなく、純粋に聞いた。

「……二人は付き合ってるの?」
「はぁっ?!」
「な、ないですよ?!」

自分の思っていた以上に大きな声で否定してしまったが、
「奏多は私の大切な友達です!」と続ける。
同じことを思っていたのか奏多も「文乃は俺の友達だ!」と訂正していた。

「そうなの?」

太陽は否定する姿を不思議そうに眺めるがすぐに「良かった」と笑った。

「付き合ってないなら、俺が文乃ちゃんをデートに誘っても問題ないね!」



あわあわとどうしたらいいか困り果てる蓮も
太陽の言葉に衝撃を受け固まってしまった奏多も
経験したことのない恋愛単語の並びに戸惑い続ける文乃も

 
太陽の純粋な素直さにはどうすることもできなかった。