ルーチェに恋をして

過去形……。
その語尾は何かしらの事情を物語っていて紡の表情が曇る。
紡の悲しげな顔につられて文乃の目線も下がった。
 
「……ステラに入ってから、兄さんは変わってしまった。」

着物だけを見ていた人が、いつしか一人の女性ばかりを見るようになった。
あんなに着物を愛していた兄は——人間を愛してしまった。

「卒業後、兄は継ぐはずだった実家を俺に譲って家を出た。『ルーチェを見つけた』と言ってあんなに大切にしていた着物を捨てたんだ」
両親は兄を止めなかった。
でも、と紡は苦しそうに話す。

「それが、僕には受け入れられなかった。」

ルーチェ。
どこかでも聞いたことがある気がした。
ルーチェってなんなんだろう。
単純に考えれば光だけど……話の流れ的に好きな人のことなのかな……。

「お兄さんのこと……嫌い?」
「…………わからないんだ。」

複雑な表情で笑う紡は眉間に皺を刻んだまま、どこか遠くを見つめている。
「多分僕は、兄さんに自分と同じでいてほしかったんだろうな。同じことで悩んで、考えて、そばにいて欲しかった」
「……うん」
「……兄さんが一人で先に進んでしまったみたいで、寂しいだけなんだ。それに今も意地を張ってるだけで……本当は分かってるんだ。」

心でわかっていても行動ができるわけじゃない。
それは何歳になってもきっとそうだし、高校生という思春期の中ならきっともっと難しいことだと思った。



互いの傷を晒しあった二人は前以上に親しくなれたような。
それが気のせいじゃないといいなと文乃は思う。
 
天才と言われるステラたちも、傷つく時は普通と変わらない。
そんなステラたちが関わり合うことで生まれる化学反応はきっと想像している以上に眩しい。