ルーチェに恋をして

「………………」
「……ご、ごめんね、こんな話聞けるものじゃない……のに」

紡は言葉を失っているのか、なんて返すべきか悩んでいるのか、黙ったまま。

「だ、大丈夫だよ、もう数年前だし。奏多とつむくん、それに蓮くんにも出会えて……」
「大丈夫ではないだろ。」

同情ではなく、本心から。
紡が言ってくれた気がした。

「そういう傷は数年でどうにかなる話じゃないだろ。大人になってもずっと……どこかで引きずる傷だ。」

——心の古傷が少し揺れる。
胸の奥がきゅっと締め上げられる感覚に何か込み上げてきそうで、困った。

……我慢。
ソファーの上なのに足を上げて体操座り、その後はひたすら目を泳がせて溢れそうなものを誤魔化した。
どうにか堪えきれた時、隣に座る紡をちらっと覗く。

「……つむくんの話もきいていいの?」
「この話の後だと僕の話はどうってことない気がするけどね。」

笑って眉を下げるその表情は色んな感情を含んでいる、気がした。
紡は前を向いたまま話す。

「僕、兄がいるんだ。その兄はここの卒業生でね。去年までここで過ごしてた」
「え……兄弟でステラなんて……つむくんのお兄さんも凄いんだね……?!」

このクラスは兄弟だから入れるものでもない。
……むしろ兄弟でステラに入学できた例は他にあるんだろうか?
そのくらい凄いことだと思う。

「……あ、だから安西さんのこと知ってたんだね!」
「ん?あぁ、そう。安西は兄の担当だったから」

 最初の頃の記憶と繋がってすっきりする。
 紡はそのまま話を続けた。

「兄さんは優しい人なんだ。和裁師としても誰より優れていて、誰からも愛されて。」

「……僕の憧れだった。」