ルーチェに恋をして


夏休み明け。

学校に向かう道はいつも通り。
教室に行ったら何があったかみんなに話そう、そんなことを考えながら学校へ向かった。

教室の扉を開ける。
いつもより遅めに登校した文乃は先にきていた友人たちの席へと向かい、話しかけたけど

『おはよー』
『……よ』
『よー……』
『……』

 空気が変だった。

最初は違和感程度、何かあったのかなと思ったくらいで気にしていなかった。
 
どんどんそれはエスカレートして無視されるようになって。
夏休みが明けて一ヶ月経つ頃には文乃は孤独だった。
そのうち小さな声で『邪魔』『キモ』『偽善者』と聞こえるようにもなって。
 
それでも通っていた文乃が放課後、忘れ物を取りに帰った教室で聞いてしまった。

『なにこれ小説?』
『えーきも』
『なんかさぁー文乃って小学校の時から気に食わなかったんだよねぇ。ちょっと調子に乗ってる感じがキモいし』
 
話しているのは文乃と同じ小学校出身のクラスメイトたち。

会話の内容は基本的に文乃を(けな)すものばかりだったが、なぜ他のクラスメイトたちまで自分を無視するようになったのか知ることができた。
夏休み前の一週間休んだことで、ズル休みだと彼女たちは有ること無いことクラス内で言い周り、文乃をよく知らないクラスメイトたちはそれを信じて文乃に嫌悪感をあらわにしたのだ。

 
夏休みも被ってしまったのが運の尽き。
文乃は弁解できる機会すら失い、クラスでは除け者状態。

 やっと理解した。
 彼女の言葉の意味を。
 
愛ちゃんは誰かと話したくても、話すことができなかった。
みんなそれを見て見ぬふり。
幸いか、文乃が除け者にされたことで彼女は周りから気にかけてもらえるようになっていたが彼女はそれを受け入れなかった。
愛は時折、苦しそうに文乃を見つめる。

それでも、彼女が自分に話しかけてくることはなかったけれど。
 
取りに戻った自作小説はゴミ箱に千切られ、紙屑(かみくず)になっていた。

もうどうでもよくなっていた。

もう終わり。
この学校という小さな世界のどこに、

 
 私の逃げ場があるというのか。

 
ああ、なんて人は怖い生き物なんだろう。
人は人を裏切り、傷つけ、それをつまみに笑い合う。

——大切だと思った人もいつか死ぬのなら、

——私はもう、誰のことも信じたくない。

 気付けば学校に近づくだけで吐き気がして、
 お腹が痛くなって、
 部屋に引きこもって。
 
親に連れて行かれた精神科では対人恐怖症と診断された。
小説を紙屑(かみくず)に変えられたあの日から、一度も。
 
文乃が学校に行くことはなかった。